【インドネシア政経ウォッチ】第24回 洪水と企業移転論議(2013年 1月 31日)

首都ジャカルタで洪水が事業活動に及ぼす影響が議論されている。今月半ばに数年ぶりに大洪水が発生したためで、インドネシア経営者協会(Apindo)のソフィヤン・ワナンディ会長は、洪水を不可避と指摘。最低賃金や電気・ガス料金の上昇で、首都圏の事業コストが既に高いことにも懸念を示した上で、「企業が安心して事業に専念できる環境を得るには、東ジャワや中ジャワなどジャワ島の他地域への移転を政府が促すべきだ」と主張する。同会長の頭にはおそらく、労働争議が激しくなっていることも入っているのだろう。

実は今回の大洪水の前から、労働集約型産業では既に首都圏から最低賃金の低い他の地域へ生産を移管する動きが出ていた。西ジャワ州スカブミ県、中ジャワ州クンダル県、ボヨラリ県などが移転先として名乗りを上げている。特にボヨラリ県では韓国政府の支援を受け、韓国系の繊維企業が工業団地を造成する計画が進んでいる。東ジャワ州も企業移転を積極的に呼び掛け始めた。

ただ政府は、ジャカルタ周辺での事業活動に楽観的な見方を示している。投資調整庁のカティブ・バスリ長官は「今回の洪水は首都中心部でひどかったが、工業団地での生産活動に直接影響しなかった」と述べ、首都圏への投資家の評価は下がらないとの見方を示した。ヒダヤット産業相は、工業団地または産業都市を全国レベルで整備する必要は認めつつ、まだ他地域への企業移転を優先政策としない方針を示した。

確かに工業団地自体は、ジャカルタ東部のプロガドゥン工業団地やバンタン州タンゲラン地区の一部を除いて物的被害は微小だった。これに対して首都圏以外の地域、特にジャワ島以外ではインフラ整備がまだまだ必要な状態だ。

今回の企業移転論議は、地方経済の活性化を進めたい政府にとっては契機となり得る。一方で企業の海外への生産移管こそが、投資を経済成長の原動力としたい政府にとって最大の懸念材料なのである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第23回 洪水のジャカルタ、遷都論議再び(2013年 1月 25日)

雨季のジャカルタは洪水の街となる。4~5年に一度は大規模な洪水が起こる。そう分かってはいても今月17日に首都を襲った大洪水はかつてない規模だった。

国家災害対策機関(BNPB)によると、1月20日時点で死者20人、避難者4万416人に上った。都心部にあるタムリン通り、スディルマン通りといった幹線道路が冠水して川のようになり、結果的に市内の至る所が冠水した。前日に「ジャカルタ全体が水に浸かる」というショート・メッセージ・サービス(SMS)が流れ、デマとして警察が捜査する矢先に、それが現実となってしまった。

洪水に加えて停電も深刻だった。ジャカルタ市内に電気を供給するムアラカラン発電所の一部が冠水して発電できなくなり、1,245カ所の変電所が停止。広範な地域で停電が長時間続き、一部のオフィスは閉鎖を余儀なくされた。

今回の洪水は基本的に予想を超える長時間の豪雨によるものではあるが、排水ポンプの機能不全、川沿いの堤防の決壊、ビルの浸水対策の不備、川などに廃棄された大量のゴミへの対策の遅れ、などさまざまな問題を浮き彫りにした。西ジャワ州ボゴールやプンチャク周辺での不動産開発による森林伐採・土壌保水力の低下が河川への流量を増やした可能性も高い。地下水汲み上げなどによるジャカルタ全体の地盤沈下も被害を拡大させた要因だ。

洪水対策のインフラとしてジョコ州知事は昨年末に、多目的な地下トンネルの構想を発表した。ジャカルタ東部から北部の全長10キロメートルを3段構造(上2段を自動車道路、下1段を電線・電話線・ガス管や浄水・下水管)とし、洪水時には自動車の通行を禁止して配水管として活用するというものだ。またユドヨノ大統領は20日に、チリウン川から東部放水路へ結ぶ2.1キロメートルの水路建設を決定した。

しかし、ジャカルタが災害への脆さを克服できるまでの道のりは遠い。大洪水を契機に、遷都の必要性がより真剣に議論されるのは確実である。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第22回 電気自動車の時代は来るのか(2013年 1月 17日)

インドネシアの自動車販売台数は、2012年に初めて100万台を突破した。日本メーカーの多くが内需だけでなく世界市場への生産拠点にも位置付けて拡張投資を進める中、自動車部品などを生産する下請企業の進出も相次いだ。輸出も昨年1~11月に25万台を超え、前年の19万台を大幅に上回るなど好調。名実ともに世界の自動車生産拠点の一角を占め始めた。

このような状況下で、政府は電気自動車の研究開発にも力を入れている。今月9日にはハッタ調整相(経済担当)を議長とする国家電気自動車開発調整会議を開催。教育文化省と科学技術国務大臣府の調整の下、専門家チームも発足させ、官民でそれぞれ複数の電気自動車のプロトタイプを試作している。今年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際には、会議で使用する車をすべて電気自動車にする計画も出された。

国営電力会社のPLNによると、ジャワ=バリの電力には30%の余剰があるほか、夜間の未使用電力100キロワットを有効活用できる。家庭電源とは別に10~20分で急速充電できる充電機を1台1,000万ルピア(約9万3,000円)で設置可能としている。

最も推進に熱心なのは、ダハラン国務相(国営企業担当)である。しかし、今月5日に中ジャワ州の高速道路で、自身の運転するフェラーリ製の赤い電気自動車で衝突事故を起こし、ナンバープレートの偽造、無許可での電気自動車の走行など警察は道路交通法違反の疑いで大臣を取り調べる事態となった。大統領候補のダークホースと目されていた同相にとって、致命的な事件となった。

電気自動車に関する話題に事欠かないが、今のところ日本メーカーの関心は低いようだ。政府も技術協力を求めずに自前での開発を試みている。果たして電気自動車の時代はいつ頃来るのか。日本メーカーもインドネシア政府の動きを注視していく必要があるだろう。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第21回 2013年は選挙の年(2013年 1月 10日)

インドネシアの各都市は、無数の花火の打ち上げとともに新年を迎えた。花火を見に来るだけでなく、自分で買って打ち上げる人も少なくない。人混みの中から打ち上げる様子に恐怖を覚えつつ、庶民が花火の打ち上げに参加する時代になったことに対し、爆竹や花火の使用が厳しく禁止されていたスハルト時代を思い出すと隔世の感がある。民主化されたインドネシアの一面を映す風景といえる。

インドネシアの民主化は、2004年の大統領直接選挙、および地方首長直接選挙の実施で制度上の目的をほぼ達成した。現在は政治家と名のつく人物はすべて国民による選挙の洗礼を受けている。スハルト時代のような大統領による任命議員は1人もいない。しかも全国33州、500以上の県・市で、任期5年の地方首長直接選挙が別々のスケジュールで、選挙運動などで死傷者を出さずに実施されることが当たり前の光景となっているところにも、インドネシア社会の成熟を感じる。

今年は15州で州知事選挙が行われる。今月22日投票の南スラウェシ州を皮切りに、パプア、西ジャワ、北スマトラ、東ヌサトゥンガラ、西ヌサトゥンガラ、バリ、中ジャワ、南スマトラ、東カリマンタン、北マルク、マルク、東ジャワ、リアウ、ランプンと続く。多数の県知事選挙・市長選挙も予定されている。

多くの政党は、一連の地方首長直接選挙を14年の総選挙・大統領直接選挙の前哨戦と位置付けている。現行法では政党を通じないと立候補できないため、政党が立候補者として地方の有力者を探す一方、地方の有力者も立候補に際してどの政党を使うかを算段するという状況が生じている。このため、大政党の立てた候補者が敗れ、マイナーな小政党に担がれた候補が当選することも頻繁に起こる。これらも念頭に置きつつ、今年1年のインドネシア政治の動きを見誤らないようにウオッチしていきたい。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第20回 地方分立モラトリアムはどこへ(2012年 12月 27日)

インドネシアの地方政府の数が増加している。州の数は現在33であるが、東カリマンタン州から北カリマンタン州が分立し、来年は34となる。北カリマンタン州は今年10月に国会で承認された。ブルンガン県、ヌヌカン県、マリナウ県、タナ・ティドゥン県、タラカン市を含み、タンジュン・セロールを州都とする。今年7月時点で、県は399、市は98である。

同時に西ジャワ州パンガンダラン県、西パプア州マノクワリ県、アルファク県、ランプン州西沿岸県の新設も認められた。今月13日には、東カリマンタン州上流のマハカム県、南スマトラ州下流のパヌカン・アバブ・レマタン県、東ヌサトゥンガラ州マラカ県、北マルク州タリアブ島県、西スラウェシ州中マムジュ県、中スラウェシ州海洋バンガイ県、東南スラウェシ州東コラカ県の設置も承認された。

地方分立が相次ぐ中、中スラウェシ州モロワリ県では、北モロワリ県の設置が認められなかったことを不服とする住民が暴動を起こした。分立を公約として当選した県知事が国会に出席しなかったことも火に油を注いだ。もともとモロワリ県自体がポソ県から分立した県だが、県都を北部のコロノダレに置くか、南部のブンクに置くかで抗争があり、敗れた北部が北モロワリ県の分立を主張してきた。

だが南部がなぜ今、北モロワリ県の分立を支持するのか。答は天然資源である。モロワリ県南部沖で近年、ガス田が見つかっており、南部で権益を独占するためである。天然資源の産出県には、いったん国庫に入った天然資源収入が傾斜的に再配分されるほか、地方税などの自己財源収入も期待できる。それを北部に分けたくない。モロワリ県以外でも、「天然資源」をキーワードにして地方分立が説明できるケースは少なくない。

ユドヨノ政権は、地方分立を当面停止するモラトリアムを宣言したままのはずだが、ここに来て急に認め出した。当然のことだが、2014年総選挙・大統領選挙を念頭に置いた「方針転換」である。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第19回 ハビビ元大統領への侮辱(2012年 12月 20日)

12月20日から上映の「ハビビとアイヌン」という映画が評判だ。ハビビ元大統領と故アイヌン夫人との夫婦愛を描いた同名の本を映画化したものである。

ハビビ氏はスハルト政権下で科学技術担当国務相を何度か務め、1998年3月に副大統領、98年5月にスハルト大統領辞任に伴い大統領に就任した。スハルトの側近とされ、大統領就任後はインドネシアの民主化改革を実行した政治家として知られている。

そのハビビ氏を批判するコラムが今月10日、隣国マレーシアの有力紙『ウトゥサン・マレーシア』に掲載された。執筆したのは、ジャーナリストのザイヌッディン・マイディン元マレーシア情報相である。彼は「ハビビ氏が大統領になった後に東ティモールを独立させたのはインドネシア国民に対する侮辱である」「ハビビ氏が大統領になる前にマレーシアの会議で当時のマハティール首相らを2時間以上待たせたのはエゴ以外の何物でもない」などと述べ、マレーシアの反体制派指導者アンワル・イブラヒム元副首相と並べて「帝国主義の犬」と評した。

これに対してインドネシアの政治家は、同コラムがハビビ氏への侮辱であると同時に、インドネシアへの侮辱であると非難した。マレーシアが常にインドネシアを「上から目線」で差別的に見ていることの表れと位置づけ、ザイヌッディン氏に謝罪を求めた。二国間関係に影響を及ぼすことを懸念したマレーシア政府も、ザイヌッディン氏にインドネシア側への謝罪を求めたが、同氏は応じなかった。なお、ハビビ氏自身はコラムの件について特に反応を示していない。

ハビビ氏をめぐっては、大統領に就任後、なぜ側近だったはずのスハルト氏と距離を置いたのかなど疑問点はある。先週のテレビ番組のインタビューで、ザイヌッディン氏もそれに触れたが、インドネシア側コメンテーターはすぐに遮った。今は「ハビビとアイヌン」のイメージを壊さないことのほうが重要なのである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第18回 汚職疑惑で現職閣僚が初辞任(2012年 12月 13日)

汚職が激しいといわれるインドネシアで、ついに現職閣僚が汚職事件の容疑者にされ、辞任する事態となった。今月7日、アンディ・マラランゲン国務相(青年スポーツ担当)の辞任記者会見は、インドネシア人の多くに驚きをもって受け取られた。

青年スポーツ省管轄のハンバラン総合スポーツ施設事業で汚職疑惑が持ち上がり、当初からアンディ国務相の関与をうかがわせる情報が流れていた。汚職撲滅委員会(KPK)は彼を容疑者に断定し、国外逃亡を防ぐために出国禁止措置を採った。インドネシアの歴史上、閣僚が現職のまま汚職容疑者になったのも、汚職疑惑が原因で辞任するのも今回が初めてのことである。

政治家の汚職疑惑はもはや日常茶飯事といってもよいが、これまで辞任する者はいなかった。辞任すれば、汚職疑惑を認めたと見なされるからであろう。疑惑を無視し、じっと耐え、騒ぎが収まるころ、何事もなかったように地方首長選挙に立候補する。そういう者が少なくない。「何かあれば腹切り(辞任)する日本の政治家を見習え」という批判をよく聞いたものだ。アンディ氏は日本の政治家を見習ったかもしれないが、自分の身の潔白は強く主張した。

アンディ氏は南スラウェシが本拠のブギス族出身である。ブギス族は白黒はっきり、直球勝負という性格で知られる。今回の彼の辞任を「潔い」と前向きに評する者もいる。彼の汚職容疑を断定したアブラハム・サマッドKPK長官も、ブギス族出身の人権活動家である。両者はおそらく、若いころは同志のような関係だったに違いない。ただ、かつてのアンディ氏の「同志」でもある私の友人のひとりは、政治家になったアンディ氏が、若い頃と比べてすっかり変わってしまったことを嘆いていた。

アンディ氏は民主党幹部でもあり、大統領候補のひとりでもあったが、今回の件でその芽はなくなった。1998年のスハルト政権崩壊後、新しいインドネシアを作る意欲に燃えていたころの彼を知る身としては、寂しさを感じる残念な辞任劇であった。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第17回 国会議員対ダハラン国務相(2012年 12月 6日)

政党や国会議員が、省庁や国営企業に便宜を図った見返りを強要する疑惑がメディアを賑わせている。10月に国営ムルパティ航空が政府から増資を受けた際に、国会議員が関連法案を通した見返りとして礼金を要求したことが明らかになった。公表したのは、ムルパティを監督するダハラン・イスカン国営企業担当国務相。メディアから強く要求された結果、礼金を要求した国会議員10人のうち3人の実名を挙げる事態となった。

当然のことながら、名指しされた国会議員は身の潔白を主張した。その後、ダハランが一部について誤りを認めたため、国会議員は「名誉棄損で訴える」「大臣の罷免を要求する」と攻め立てる。ムルパティのルディ社長は、国会議員からの礼金要求は否定しなかったが、「自分は大臣に報告していない」とダハランをかばう姿勢を示した。

民主化後のインドネシアでは、省庁や企業による議会対策が極めて重要となった。議員たちに内容を理解してもらい、法律や政策を通してもらうためである。ゆえに、省庁や企業が「議会対策」の名の下で議員にさまざまな便宜を図るほか、逆に議員側が省庁や企業に要求をすることも一般化した。政党や議員にとっては大事な資金源となる。

11月14日、ディポ・アラム内閣官房長官は、国家予算絡みで3省庁が国会議員と不明朗な癒着関係にあると汚職撲滅委員会(KPK)に報告した。同長官によると、政府はすでに2005年からKPKに対して約1,600件の汚職疑惑の捜査許可を求めてきたが、そのほとんどが政党・国会議員に絡むものであるという。

国会で叩かれているダハランは次期大統領候補のひとりと目されている。一部の政治勢力の中には、今回の事件を通じてダハランにダメージを与え、大統領候補としての芽を摘みたいという思惑もあるようだ。ダハランはここでつぶされるのか。引き続き注目していきたい。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第16回 派遣労働から業務請負へ(2012年 11月 22日)

アウトソーシング(外部委託)に関する労働・移住相令が14日に発布、19日に施行された。当初に予定していた今月2日の発布が遅れたのは、「労使間の対立が解けないため」と報じられていたが、実際は手続論の問題だった。

すなわち、政府、経営者、労働組合の三者協議という基本ルールを守らずに、経営者抜きで話が進められていたからであり、実際に14日に三者協議が再開された後、大臣令が署名された。ただし、経営者側は派遣業務を5種に限定することに最後まで抵抗し、全面同意には至らなかった。

実は、アウトソーシングの解釈に新たな動きがあった。7日の外国人ジャーナリスト協会のパネルディスカッションで、労働・移住省の報道官は「これまで使ってきた5業種以外の派遣労働は業務請負に移行する」と発言した。業務請負は法人以外に認められておらず、また中核(コア)業務と非コア業務の区別や業務フローについては、従業員の同意と地元労働局の承認が必要で、結果的に悪質なアウトソーシング業者は排除される。派遣労働が一切禁止になるのではなく、業務請負へと形を変えて継続できる可能性が見えたといえる。

過激な争議への批判が高まっているためか、渦中の金属労連は「違法なアウトソーシングに反対」と主張し、アウトソーシング全体を否定しているのではないという姿勢を見せる。しかし合法の定義は示せず、法的には「例示」に過ぎない派遣労働の5種を「限定」へ変更させた力を誇示するだけの結果に終わった感がある。

派遣労働から業務請負への移行という方向性は、署名後の大臣発言でも踏襲された。労働組合側も業務請負自体には反対しない意向を示している。結果的に「派遣労働から業務請負へ」という流れが労使双方の落としどころとなったようである。

組合側は最低賃金の引き上げに要求の重心を移し、今日22日、5万人規模のストを実行する計画だ。組合側が力を誇示するネタはまだまだ尽きない。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第15回 外部委託規制、標的は悪質業者(2012年 11月 8日)

11月2日といわれていたアウトソーシング(外部委託)に関する新たな労働・移住大臣令の発布は、同月半ばに延期された。焦点は、派遣労働を清掃、警備、配膳、運転手、石油ガスの5種に限定することにある。

労働法(法律2003年第13号)第66条では、5種は単に例として挙げられたにすぎないため、インドネシア経営者協会(APINDO)は限定を不当として憲法裁判所に訴える構えをみせている。しかし、労働・移住省は、同法第65条に「大臣権限で条件などの変更可」とあるため不当ではないと反論する。

金属労連(FSPMI)などの労働組合は、派遣労働者の正規労働者化を求めて横暴なデモや示威行為を繰り返しているが、労働者を派遣するアウトソーシング業者のことは、あまりメディアで取り上げられていない。アウトソーシング企業協会(ABADI)の加盟企業は約200社だが、実際には1万社以上が当該業務に携わっているといわれる。村長や地方政府が簡単に設立許可を発出したためで、労働・移住省も十分な監視が行えていない。ペーパーカンパニーまがいの業者も多いほか、同省関係者や警察などが絡んでいるケースもあるそうだ。

業者を通じれば、求職者は派遣労働者として登録することで職探しのコストを低減できる。厳しい競争にさらされる経営側も状況に応じて従業員数を柔軟に調整できる。その意味で、アウトソーシング制度は労働市場の需給調整を円滑にする面がある。ABADIの試算によると、アウトソーシングを5種に限定すると、新たに1万以上の失業者が発生する。

労働組合のアウトソーシング批判は、労働者をモノのように扱い、業者が彼らの賃金から不当にピンハネする点に向けられる。APINDOも悪質な業者を批判している。そうであれば、組合側と経営側は相互の対立をエスカレートさせるのではなく、むしろ一緒に悪質な業者の摘発と監視をすべきではないかと思うのだが。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第14回 HasmiとHASMI(2012年 11月 1日)

国家警察テロ対策部隊(Densus 88)は10月26日から27日にかけて、ジャカルタ、西ジャワ州ボゴール、東ジャワ州マディウン、中ジャワ州ソロの4都市でテロ容疑者11人を逮捕した。米国大使館、オーストラリア大使館前のプラザ89ビル、中ジャワ州スマランの警察機動隊本部前、東ジャワ州スラバヤの米国総領事館などを標的としたテロを計画していたとの容疑からだ。同時に、爆弾製造の材料や爆発物なども押収した。

警察によると、彼らはハスミ(Hasmi)と呼ばれる新たなテロリスト・グループのメンバーで、中スラウェシ州ポソでの警察官殺害や爆弾事件にもかかわっている。逮捕されたアブ・ハニファ(26歳)はリーダーで、ポソでテロリスト訓練を受けたといわれている。ポソからソロへ戻った後、近隣住民に弓矢や剣のほか、火器の使い方も教えていた。中ジャワやジョクジャカルタ特別州の急進イスラーム組織ラスカル・ヒスバとの強い関係を指摘する評論家もいる。

ところが、すぐに同名の組織がテロリストとの関係を否定し、警察に抗議する声明が出された。この声明を出したハスミ(HASMI)は、Harakah Suniyyah untuk Masyarakat Islamiという組織で前述のHasmiとは別組織。「逮捕された11人は会員ではない」「暴力を否定する」と訴えた。HASMIは、初期イスラーム(サラフ)への回帰を掲げるサラフィー主義の団体で、2004年に社会団体として政府に正式登録されている。厳格なイスラームを希求するが、政治には消極的・保守的とみられている。

警察は結局、HASMIがHasmiと別組織であることを認めるとともに、Hasmiのような新グループが容易に形成される可能性にも言及した。アブ・ハニファはジュマア・イスラミアの信奉者とされるが、Hasmiのメンバーとポソ・グループとは直接の関係はないという見方もある。彼らのネットワークのより詳細な解明が待たれる。

一方で暴力を否定するといっても、HASMIは急進イスラーム組織と思想的に共通する部分があるため、警察が大きな関心を持っていることは想像に難くない。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第13回 MRTと首都交通システム(2012年 10月 25日)

今月15日にジャカルタ特別州の知事就任式を終えたジョコウィ新知事は、「大量高速公共交通システム(MRT)事業に関するプレゼンテーションを早急に求める」と述べた。交通問題の専門家から構成されるインドネシア交通コミュニティ(MTI)がMRTの事業コストの高さを疑問視しているため、より安いコストで建設可能かを再検討するのが狙いだ。再検討作業に時間がかかれば、建設計画に遅れが生じる可能性が出てくる。

一部のマスコミは、事業の遅延だけでなく「白紙化の可能性もある」と報じた。知事が代替輸送手段にも言及したためである。知事は翌日、白紙化の可能性を否定して事業継続を明言した。ただ1キロメートル当たりの建設コストが、生活水準の高いシンガポールよりもはるかに高いことを引き合いに、事業コストに対する説明を求める姿勢をあらためて表明した。

MRT事業とは別に、資金難で一度は頓挫したモノレールの敷設計画が、国営アディカルヤ主導のコンソーシアムで動き始めた。もともとMRTとモノレールは、どちらかをジャカルタに適用するという話だったが、現在では両方とも必要との認識に至っている。今月19日にはアホック副知事から、「MRTとモノレールの運営を一体化してはどうか」との提案も出た。

知事は、MRT、モノレール、バスウエーなどすべての公共交通手段を有機的に統合する方法を考えている。早速、老朽化したバス車両を更新し、中型バスを冷房付きの大型のバスに代えていく構想を示した。

インドネシアでは「まずやってみて問題があれば後で考える」のが一般的である。渋滞解消待ったなしのジャカルタでは、将来を見据えた交通システムの体系化は今さら難しく、やはり「走りながら考える」ことになる。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第12回 汚職捜査官の殺人容疑(2012年 10月 18日)

今月5日、警察官5人が反汚職委員会(KPK)の事務所へ押しかけ、立ち入り調査を求めた。警察の運転シミュレーターに関する汚職疑惑を捜査する警察出身のノベル・バスウェダン捜査官に対し、ブンクル州警が殺人容疑をかけているためである。

ブンクル州警によると、8年前の2004年に同州で警察官を務めていたノベルは、ツバメの巣を盗んだ疑いで男性6人を取り調べた際に自白を強要した。取り調べに行き過ぎがあったとの理由で、他の警察官5人とともに倫理規定違反で7日間の拘禁などの処罰を受けた。

処分はこれで終了したはずだったが、今月1日になって海岸での現場検証の際に、容疑者の1人がノベルに銃で撃たれて死亡したという話が出てきた。犠牲者の遺族が弁護士を通じて証言したのを受け、ブンクル州警は殺人容疑でノベルの令状を出し、取り調べを開始したのである。

新たな証言は、警察の運転シミュレーターの汚職疑惑の捜査が進む時期に飛び出した。国家警察は「ブンクル州警の話で汚職疑惑とは関係ない」と説明するが、偶然にしてはタイミングが良すぎる。これまでにも暴動などが起こると、警察は凶器や証拠品をわざわざテレビで放映し、犯人を示唆するようなコメントを出すことがよくあった。その手際があまりにも良すぎて、逆に警察のシナリオが丸見えになるのではないかと思ったものだ。

警官がKPKの事務所に押しかけた直後の週末は、全国各地で「KPKを守れ」「大統領は沈黙なのか」などのプラカードを掲げた市民デモが発生し、「警察がKPKの汚職捜査を妨害しようとしている」と非難の声が上がった。

ユドヨノ大統領はこれを受けて8日、KPKを擁護する演説を実施し、ノベルへの取り調べ時期とやり方は不適当と指摘した。ただ同氏に対する殺人容疑が晴れたわけではなく、ブンクル州警による取り調べは続行される。汚職捜査をめぐるKPKと警察との駆け引きはまだ続きそうである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第11回 魅力的な投資先、東ジャワ(2012年 10月 11日)

日系製造業の多くは現在、ジャカルタ首都圏で操業しているが、用地取得や労働争議などでマイナス面が出始めている。そこで投資先として注目を浴び始めているのが東ジャワ州である。

同州の人口は3,750万人で、2012年上半期(1~6月)の経済成長率は全国平均の6.5%を大きく上回る7.2%を記録した。限界資本生産比率(ICOR)はジャカルタの4.6に対して東ジャワは3.1と低く、投資が経済成長を促す効率はジャカルタよりも高い。州投資局によると、書類がすべて整えば投資認可の必要日数は最長17日。電気などエネルギー供給も現時点では余っている。

既存の工業団地は急速に埋まりつつあるが、ジャカルタに比べればまだ空きがある。州政府は全県・市に「工業団地を急いで造成せよ」と号令をかけ、モジョクルト、ジョンバン、バニュワンギなどで用地買収が進む。価格も現時点では1平方メートル当たり70万~80万ルピア(約5,700~6,500円)と低水準だ。日系企業が多く入居するパスルアン工業団地から州都スラバヤまでの所要時間は1時間強だが、数年後には高速道路でスラバヤ港や空港と直結する。ジョンバンでは韓国企業専用の大規模な工業団地の開発が計画されている。

州知事は、全国に先駆けてアウトソーシング(外部委託)あっせん会社の新たな事業許可を凍結、争議の際には労働組合の代表と直接話し合う姿勢を貫く。実際に10月3日に行われたゼネストでは、多くの工業団地で午前中に終了したもようで、破壊活動もなかった。ジャカルタ周辺では、マネージャークラス以外に一般労働者クラスの採用も難しくなり始めたが、東ジャワではまだ余裕がある。

大阪府と姉妹関係にあるため、日本からの企業視察団が頻繁に来訪する。スラバヤはスラウェシ以東、インドネシア東部地域との交易の中心であり、スラバヤ港は日本と直結する。対日感情も良好である。ジャカルタ以外の投資先として、東ジャワを検討する価値はありそうだ。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第10回 高校生、乱闘よりもアイドル(2012年 10月 4日)

先週の地元メディアでは、連日、高校生の乱闘事件が大きく報道された。9月26日付『コンパス』紙によると、ジャカルタ首都圏では、過去1年間に13人の高校生が乱闘で死亡している。

同月24日、南ジャカルタの最高裁近くのブルンガン通りで、ジャカルタの有名校である第70高校の生徒約10人がチェーンや鎌や木片などの凶器を持って、同じ有名校の第6高校を襲撃し、同校1年の男子生徒1人が胸を凶器で刺されて死亡した。その2日後、東ジャカルタのマンガライ地区でカルヤ66財団高校生と技術カルティカ実業高校生が乱闘となり、カルヤ66財団の高校生1人が刃物で切りつけられて死亡した。

24日の加害者はジョグジャカルタに逃亡したが、27日までに警察に逮捕された。26日の加害者はすぐ逮捕されたが、「殺したことに満足している」と語った。警察の調べでは、彼らから薬物の使用反応はなかった。

ジャカルタでの高校生の乱闘は、実は目新しいものではない。筆者がかつて住んでいた1990年ころも頻繁に見かけ、激しい投石の合間をバスで通り抜けたこともあった。近隣の高校同士のライバル意識が根底にあり、口喧嘩など些細な原因で「仲間を守る」意識から乱闘に至るケースが多い。一時期は、軍・警察幹部の子弟が銃や武器を家から持ち出し、乱闘に使うような事件さえあった。

高校生たちは、有り余るエネルギーを上手に発散できないのである。日本のような部活動は発達していないため、有り余るエネルギーを他校への敵がい心として発散させ、乱闘騒ぎになってしまうのかもしれない。こうした乱闘が社会不安につながれば、それを政治的に利用しようとする勢力が現れる可能性もある。

そんなことを思いながらジャカルタ・ジャパン祭りへ行くと、アイドルグループ「AKB48」の姉妹グループである「JKT48」の親衛隊が彼女たちを目の前に、全力でグルグル腕を激しく回しながら一心不乱に踊り続けていた。その多くは高校生である。乱闘よりもアイドルの応援に精を出す。いっそのことJKT48がもっとメジャーになり、より多くの高校生が親衛隊に入って全力で踊って欲しいと思った。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第9回 首都知事選、現職敗退の影に(2012年 9月 27日)

ジャカルタ首都特別州の知事選挙の決選投票は20日、大きな混乱もなく行われた。選挙委員会による得票確定は10月第1週だが、民間各社の開票速報によると、第1回投票で首位となったジョコウィ=アホック組が第2位のファウジ=ナラ組を再度破って当選した。

筆者のみる限り、現職のファウジはこれまでに、糾弾されるような悪政も汚職疑惑も特になかった。首都の抱える交通渋滞や洪水対策など複雑な問題に直面し、目に見える成果は上がらなかったかもしれないが、どんな知事でもすぐに改善できる問題ではない。

選挙戦では自分の施策に予算的な裏付けを考えていたようだが堅実さは注目されず、大まかな政策アピールにとどまったジョコウィに勝てなかった。改革を訴えて勢いに乗るジョコウィが相手でなければ、おそらく再選されていたはずである。

ファウジの足を引っ張ったのは、実は一緒に組んだ副知事候補のナラだったのかも知れない。演説では、地元ブタウィ族やイスラム教であることを強調し、「ブタウィ族を選ばない奴はジャカルタから出ていけ!」という発言で、選挙監視委員会の事情聴取を受けた。

インドネシア語を華人風に面白おかしく発音し、ジョコウィと組んだ華人系のアホックを揶揄(やゆ)したこともひんしゅくを買ったようだ。ブタウィ族の横断組織であるブタウィ協議委員会議長を務め、ブタウィ族の青年団体の親分格でもあるナラは、相当に焦っていたようだ。

ファウジは現知事として、23日のジャカルタ・ジャパン祭りの開会式に出席した。「今年はフィナーレで一緒にみこしを担ぐ」と挨拶し、寿司バトルまで臨席して終始上機嫌だった。肩の荷が下りたかのようなリラックスした姿が印象的だった。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第8回 出張旅費の不正支出問題(2012年 9月 20日)

インドネシア語の日刊紙『コンパス』で先週、公務員の出張旅費がやり玉に挙がっていた。2013年度予算案では、国家歳出総額1,658兆ルピア(約14兆円)に対して出張旅費が21兆ルピアだった。額と歳出比率自体は、日本と比べても法外に高いわけではないが、5年前の9兆1,000億ルピアから12年には18兆ルピアへと倍増。来年はさらに3兆ルピアが上乗せされたため、国民も黙っていないようだ。

出張旅費では不正支出のほうが大きな問題となる。会計検査院の報告によると、11年の不正支出の比率は約4割に上り、その額は8,600万人を対象とする庶民向けの社会保険(Jamkesmas)の支出額である7兆3,000億ルピアを上回る。筆者自身もかつて地方政府でカラ出張が恒常化していたのを目撃したことがある。セミナーなどで主催者から旅費が出ているにもかかわらず、職場にも出張旅費を請求して二重取りしているケースも見かけた。

しかし数年前から、汚職撲滅委員会(KPK)が贈収賄疑惑を連日追いかけ、会計検査院も全国の省庁・地方政府の予算に至るまで監視を強めている。そのせいか出張旅費の取り扱いが厳しくなり、会計検査で不正支出とみなされるのを警戒する姿勢が強まった。コンパスによると、スラバヤ市は「これまで各自が行っていた航空券の手配などを総務局で一括する」と市長が発表した。少しずつだが、使途の透明性が確保される兆しがある。

スハルト政権の崩壊後、中央政府も地方政府も自前予算で海外や他の地方を視察し、学習したり情報を得たりする活動が増えた。その結果、画一的でない、新しいアイディアや方法論が政策のなかで試されるようになったのは喜ばしい。しかし、出張に家族を同伴させ、用務より買い物に精を出す傾向はまだ見受けられる。出張者に詳細な出張報告・会計支出報告を義務化し、一般公開でもしないと国民の批判は収まらないだろう。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第7回 警戒すべき経常収支の赤字増大(2012年 9月 13日)

インドネシア経済に、おぼろげながら黄信号が灯り始めたかもしれない。黒字基調だった経常収支が2011年第4四半期(10~12月)から赤字へ転換し、赤字幅は今年第2四半期(4~6月)に69.4億ドルに拡大した。経常収支の対国内総生産(GDP)比も政府目標の2%を上回る3%超となり、公的対外債務比率も久々に30%を超えた。一方で、資本収支の黒字は、直接投資と証券投資の流入で急増し、経常収支の赤字を補てんしている。

輸出減少と輸入増加が、経常収支が赤字に陥っている原因である。輸出では石炭、ゴムなど主要コモディティ価格が低下して生産・輸出とも大きく減少し、繊維・化学製品の輸出も落ち込んだ。国別では中国向けを除いて軒並み減少し、特にシンガポール向けの落ち込みが目立つ。これに対して輸入は、機械類や電機など資本財の輸入増が著しく、国別でも日本や中国からの輸入が急増した。まさに、直接投資がそれに必要な機械などの資本財輸入を誘発している。

実は1980年代半ば~1990年代初期のインドネシアも、同様に大幅な経常収支の赤字に悩んでいた。ただ当時は、金融政策で切り下げた通貨ルピアを武器に、低賃金・労働集約製品の輸出振興を図り、外国から輸出向けの直接投資を呼び込む戦略をとった。

しかし、現在インドネシアに流入する直接投資の多くは、消費ブームに沸く国内市場を標的とし、輸出への貢献は期待できない。労働コストも年々上昇しており、低賃金・労働集約製品の優位性もなくなってきている。また、コモディティ以外に競争力のある輸出品は極めて限定的である。

政府は製造業向けの投資が工業化に果たす役割に期待するが、経常収支の赤字はしばらく続く見通しだ。それにどこまで耐えられるのか。輸入増は外貨準備を減少させ、通貨ルピアへの信頼を低下させる。米ドル買いなどの投機的な動きが海外への資本逃避を誘発すれば、国内市場は一気に冷え込む可能性もある。1990年代後半の通貨危機の経験を踏まえ、慎重に動向を見極める必要がある。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第6回 コメ中心主義からの転換(2012年 9月 6日)

世界的に食糧危機が懸念される中、今年はインドネシアにおける農作物の生産が好調だ。7月発表の中央統計庁の統計によると、通年でコメの生産量(もみ米ベース)は前年実績比4.3%増の6,859万トンと予想されている。

昨年は住宅や工場用地への転換などで水田耕作面積が前年比で3%減少したこともあり、前年比で1.7%減少した。しかし、前年と耕作面積が変わらない2012年は、ジャワ島でコメの生産性が4.5%増と大幅に上昇したほか、ジャワ島以外での耕作面積も3.3%増える見通しなど明るい材料が多い。

ここ数年減産が続いていたトウモロコシも、耕作面積の拡大と生産性の向上により、今年は前年比7.4%増の1,895万トンになることが見込まれている。一方で減産が予想される主要作物は大豆くらいだ。

生産量が増えている農産物だが、中長期的な食料安全保障の観点からみると懸念事項が残る。特に1人当りの年間消費量が139キログラムで、日本の2倍以上と多いコメがそうだ。

1950年の主食に占めるコメの比率は5割程度だったが、「緑の革命」によるコメの増産を経て2010年には95%に上昇した。コメを食べることが「文明化」と同一視され、コメ以外食べなくなったのである。

政府は状況を打開するため、コメ生産量の大幅な増加に加え、コメ以外の食糧へと生産を多角化する方向性を打ち出した。消費量を7.5%下げれば、世界最大のコメ輸出国になれるという民間の試算もある。

昨今の現地でのグルメ・ブームは、ローカル食の再評価を促している。生活に余裕が生まれ、食に対する国民の関心が増えた今こそ、コメなど炭水化物中心の生活から脱却し、食文化をより豊かにする好機である。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第5回 汚職について考える(2012年 8月 30日)

インドネシアで汚職報道のない日はない。実際に何人もの政治家や政府高官が実名かつ現職のまま逮捕されており、汚職のイメージを払拭(ふっしょく)するのは容易ではない。

スハルト政権が倒れ、民主化の時代になってからの方がひどくなったような印象だ。地方分権化により全土に拡散してしまったという見解も一般的である。汚職を根絶できない現体制を抜本的に変えるとの期待から、イスラム法適用運動が一時的に支持を集めたが、結局、清廉さを売り物にしたイスラム政党も汚職に染まり、急速に色あせていった。

スハルト時代も汚職は大問題だった。コミッションと称して「袖の下」を要求するスハルト大統領のティン夫人は「マダム10パーセント」と呼ばれ、スハルトの親族はビジネスを拡大させた。国民は「大統領がするなら」と汚職を正当化し、一緒に行ったため、それを暴くことは事実上困難だった。

スハルト後の民主化時代になると、政治勢力が多極化した。大統領公選や地方首長公選が実施されると、競争相手を追い落とすため、汚職などのあら探しが始まった。報道や表現の自由も保証されたことから、メディアは汚職関連記事を連日のように掲載する。記事を書かれた政治家は、別の政治家の収賄疑惑を血眼になって探すなど政争に明け暮れ、汚職をなくそうという機運が高まらない。

大統領直属の汚職撲滅委員会は容疑者への盗聴も許され、訴追された容疑者は汚職裁判所で裁判を受ける。裁判では盗聴された携帯電話の通話録音も証拠となり、有罪となれば執行猶予の付かない実刑判決を受ける。

政府の役人と話をすると、援助機関が実施する研修やセミナーへの交通費や宿泊費さえ、「援助機関側から支出してもらいたくない」と言われる。汚職嫌疑をかけられる恐れがあるからだ。汚職をする時代から汚職を怖がる時代へと変化の兆しはある。でも皆が続けていることに変わりはない。

 

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