イースター前に報じられた2つの事件(追記あり)

今日はイースター前のグッドフライデー。インドネシアは祝日です。今日から三連休となっているようです。

イスラム教人口が9割近くを占めるインドネシアですが、イスラム教は国教ではありません。イスラム教のほか、カトリック、プロテスタント、ヒンドゥー教、仏教、儒教が宗教として認められています。日本で一つに括られるキリスト教は二つに分かれています。

そして、建国五原則(パンチャシラ)の第一原則として、唯一神を信じることが求められています。ヒンドゥー教、仏教はそうなのか?、儒教は宗教なのか?といった疑問は、とりあえず、ここでは脇に置きましょう。

ちなみに、アニミズムのようなものは宗教ではなく「信仰」というカテゴリーに入るので、アニミズムを信じている人も前述の宗教のどれかに分類されているのが現状です。

というわけで、イスラム教人口が世界一多いインドネシアでも、他宗教のお祝いも行われ、それらは国の祝日となっています。イースターもその一つです。他宗教への寛容がインドネシアの基本中の基本となっているのです。

ところが、今日、他宗教への寛容という観点からすると、残念な出来事が少なくとも2件報じられていました。

一つ目は、シンガポール・チャンギ空港での4月9日の出来事です。

インドネシアの西ヌサトゥンガラ州知事が航空会社のカウンターでチェックインをするために並んでいました。州知事は、ちょっと飛行機の時間を確認しようと思って列から外れ、確認した後、再び列に戻りました。

すると、州知事の後ろにいた若者が「順番を守れ」といって抗議しただけでなく、州知事に対して汚い言葉で罵ったのです。「プリブミだからな、土人だからな、このドブネズミ野郎!」と(原語では、Dasar pribumi, dasar Indo, Tiko (tikus kotor) ! と言ったとされます。インドネシア語日刊紙 Republika の記事を参照)。

恥ずかしい話ですが、今回の件で、Tiko ! という罵り言葉を初めて知りました。

この西ヌサトゥンガラ州知事は36歳で、インドネシア国内の州知事としては最年少なのですが、ロンボク島を本拠地とするイスラム社会団体のナフドゥラトゥール・ワタンの若き指導者です。

州知事に対して罵った若者は、インドネシア国籍の華人青年でした。このため、華人がムスリムを侮辱したという話になって、ナフドゥラトゥール・ワタンの関係者の怒りが治りません。もっとも、州知事はこの若者に列を譲っただけでなく、若者の無礼を許したということで、一気に評判が上がりました。

二つ目は、今日の昼、ジャカルタのモスクでの金曜礼拝での出来事でした。

イスラム教徒は、どのモスクで礼拝を行なってもかまいません。休職中のジャカルタ首都特別州副知事で、今回の選挙で、再選を目指して州知事候補のアホック現知事(休職中)と組んで立候補しているジャロット氏が、いつものように、金曜礼拝をするため、選挙活動場所の近くのモスクに入りました。

そのモスクでの金曜礼拝の説教で、説教師は、「次の州知事選挙ではムスリムの候補が選ばれるべき」と述べて、アホック=ジャロット組の対抗馬であるアニス・サンディ組への投票を促す発言を繰り返しました。金曜礼拝は政治の世界とは別だと思っていたジャロット氏は大変驚いたということです。

しかし、彼はそこで感情をあらわにすることなく、普段通りに礼拝を終えました。礼拝が始まる前から、ジャロット氏が来ていることは他のイスラム教徒たちも知っており、礼拝前には一緒に写真を撮ったりしていたのですが、礼拝終了後、一部のイスラム教徒がジャロット氏がいることに不快感を示し、モスクからすぐ出て行くように強制したということです。

(追記)モスク側からは、「モスク側には何の連絡もなく、ジャロット氏が支持者やメディアと一緒にやってきて、礼拝の後に選挙運動を行おうとしたから、お引き取り願った」という説明が出されているようです。実際にそのような意図がジャロット氏側にあったかどうかは不明ですが、モスク側から見るとそのように見えたようです。

ジャカルタでは、キリスト教徒のアホック氏を支持するイスラム教徒の礼拝や葬儀をモスクが拒む事例が散見されます。金曜礼拝の説教が露骨に特定候補への投票を促す内容になるなど、イスラム教を政治的に利用する動きがますます強く見られるようになりました。

ジャカルタ首都特別州選挙監視委員会は、この件について、選挙運動違反になるかどうか調査を行うことにしています。アホック氏が「コーランの一節を使って非ムスリムの候補への投票ができないというならそれは仕方がない」と発言したことを、一部のイスラム指導者たちが「コーランへの侮辱」として強く批判しています。同時に、彼らは、コーランの一節を使って、「非ムスリムの候補への投票をするな」と唱え続けています。

異なる他者への寛容という精神は、インドネシア全体でかなり根付いていると思いますが、ちょっとしたことで、政治と絡めて、特定勢力の利益のために利用され、分断を人為的に作ろうとする動きを促している兆候があります。

嘘や偽情報を意図的に流して、人々を煽る手法がインドネシアでもよく見られるようになりましたが、これは今や、世界中どこでも見られるものです。それが広まる前に、嘘であり偽情報であることがまだわかる段階で早めにそれを摘んでおく必要があります。

イースターに起きたインドネシアの2つの事件は、大きな話ではありませんが、大きな騒ぎとなる前に、真実のかけらがまだはっきりと残っている間に、処置をしておく必要があることを改めて認識させてくれました。

別の未来を始めよう!

シンガポールの女性軍人採用の広告です。リクルートメント・フェアをOCBCスクエアで12月2・3日に開催する、と告知されています。

3人とも、爽やかな笑顔が印象的で、「別の未来」というのがちょっと素敵なフレーズです。その意味は、実は、きっと、なかなか複雑なのかもしれませんが。

シンガポールの男子には徴兵制があります。17歳で徴兵検査を受ける義務があり、適性と判断されると、18歳で召集され、予備役だと、2年間に年間最長で40日間の兵役義務が課せられます。ただし、大学等へ進学する場合には延期が可能で、卒業後などに兵役義務を果たすことになります。

ただし、兵役では、軍事部門だけでなく、消防などの非軍事部門にも配属されるそうです。そして、兵役終了後も13年間は予備役に就くそうです。兵役拒否は良心的であろうとなかろうと難しいとか。

こうした文脈で、この「別の未来を始めよう!」を見ると、シンガポールの少子高齢化の影響が想像できます。このままでは、十分な数の若者を徴募兵として確保できず、また、予備役の動員も現実的には難しいため、兵役義務のない女性をも軍人として採用しようとすることを盛んに行なっていかなければならないのではないでしょうか。

前回のブログの水問題もそうですが、小国であるシンガポールには、自分で自分の国を守らなければならないという危機感があると感じます。

この広告のすぐそばには、「クマちゃんメリークリスマス!(Have a Beary Merry Christmas !)」と、早くもクリスマス気分全開の飾り付けがありました。

シンガポールがテロリストの標的になるかもしれないという不安もある中、彼女たちの「別の未来」が、こうしたほんわかした世界と別の未来にならないことを願ってしまいました。

シンガポールのニューウォーター(新生水)

11月26日、ジョグジャカルタから帰国する前に、久々にシンガポールに寄りました。お目当ては、もちろん食べ歩きなのですが、それ以外に、在シンガポールの友人が面白いところに連れて行ってくれました。

それは、シンガポール・ニューウォーター・ビジターセンター。シンガポールの水道公社が行っているニューウォーター(新生水)を一般向けに紹介する施設です。

このニューウォーターというのは、一言で言えば、リサイクル水のことです。シンガポールが水を確保する方法は、(1) マレーシアから買う、(2) 雨水などをため池に貯める、の他に、(3) ニューウォーター(リサイクル水)を生産する、があります。

ニューウォーターは、下水をろ過し、殺菌し、蛇口からそのまま飲める状態にして、浄水へ還元する水です。ビジターセンターでは、その工程を学ぶことができます。

そこでは、まず、下水をマイクロフィルターでろ過、次に逆浸透膜(RO膜)を通して水に含まれる不純物を取り除き、最後に紫外線消毒をすることで、ピュアな水を生産できる、ということのようです。

ニューウォーター自体の研究は1970年代から行われていたようですが、コストと信用性の問題から実用できずにいたのが、1998年に生産体制が確立し、2000年に最初のニューウォーター生産プラントが完成、2001年から供給が始まり、現在では、シンガポールの水供給の30%をニューウォーターが占めるまでになったということです。

実際、ビジターセンターでは、ペットボトルに入ったニューウォーターを飲むことができ、もちろんしっかり飲みました。クセのない美味しい普通の水でした。

ペットボトル入りのニューウォーターは、実際に市中で販売を試みたらしいのですが、あまり売れなかったということです。もともとが下水なので、人々が気持ち悪がって飲まなかったのだと想像します。

今のところ、ニューウォーターは産業用として主に使われていますが、渇水時には、通常のため池からの水と混ぜて飲用にも使われています。

シンガポールは、自然の水源を持たない国です。マレーシアからの水の購入は2061年まで契約がありますが、そのマレーシア自体が水供給が不足気味と聞きます。こうした事態を見越して、シンガポールはニューウォーターの開発を進め、今では、ニューウォーター生産プラントが4箇所稼働しており、マレーシアとの契約が切れる1年前の2060年に、ニューウォーターの比率を水供給の55%にまで引き上げる計画です。

アジア有数の高所得国となったシンガポールの重要な懸案の一つが水問題であり、それを克服するために、ニューウォーターの開発を進めてきたことに、先見の明を感じます。

もっとも、シンガポールの250万人という人口規模とその集中具合が、高コストのニューウォーター開発を可能にする要素の一つで、どんな国でもニューウォーター開発が有効という訳にはならないことも事実だと思います。

このビジターセンターは、チャンギ空港のすぐそばにあります。センターでは1日に4回の無料ツアー(所要約45分)を行なっていて、誰でも気軽にネットで申し込むことができます。ツアーでは、「シャワーの時間を1分減らすとこんなに水の量を減らせる」といった水の使用量を節約させる教育的機能も果たしています。

このような政府施設をオープンにし、ネットで申し込める見学ツアーなどを通じて、積極的に住民へ説明し、節水意識を広めていくといった活動は、日本の行政機関などももっと学べるのではないかという気がしました。

こんな、一味違ったシンガポールに出会うのもいいのではないでしょうか。

The NEWater Visitor Centre
20 Koh Sek Lim Road, Singapore 486593
E-mail: pub_newatervc@pub.gov.sg
Phone: 6546 7874

見学ツアーの予約はこちらから。
https://app.pub.gov.sg/newatertour/Pages/default.aspx