【インドネシア政経ウォッチ】第129回 外国・民間資金頼みのインフラ整備(2015年5月7日)

ジョコ・ウィドド政権における2015~19年の中期開発計画(RPJMN)は5月中に策定予定だが、その概要が明らかになり始めている。注目されるのは、インフラ整備予算である。

政府によると、19年までに必要なインフラ整備向け投資は5,519兆ルピア(約4,200億米ドル=約50兆円)であり、うち442兆ルピア(約340億米ドル)を外国借款で賄う。外国借款の68%に当たる299兆ルピア(約230億米ドル)は公共事業・公営住宅省向けで、浄水・衛生(約50億米ドル)、高速道路(約30億米ドル)、橋梁・道路ネットワーク(約20億米ドル)、洪水対策(約16億米ドル)などに配分される。

ところが、民間調査機関である経済金融開発研究所(INDEF)によると、上記5年間のインフラ整備への国家予算額は1,178兆ルピアに過ぎない。この数字が本当ならば、残りの3,899兆ルピアを外国借款と国家予算以外から調達しなければならない。

実際、ジョコ政権下では、ジャカルタ=スラバヤ間の高速鉄道建設、スマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島での鉄道建設、ジャカルタの地下鉄建設、港湾整備、発電所建設など、さまざまな大プロジェクトがぶち上げられている。しかし、そのほとんどは、民間資金のみか官民パートナーシップ(PPP)で賄うことが想定されている。ジョコ政権も、大規模インフラ整備に国家予算を充当しない方針を維持したままである。

ジョコ大統領は、国際会議の場でこれらインフラ事業への投資を外国投資家へ積極的に呼び掛けている。一方で、アジア・アフリカ会議60周年総会では、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)などの既存国際機関による従来の援助スキームを批判する演説を行った。

インドネシアは、中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の本部誘致を目指すなど、中国寄りの姿勢を鮮明にしつつある。実際、中国の習近平主席からは、中国の2つの国営銀行を通じて、インドネシアのインフラ投資向けに500億米ドル(約650兆ルピア)という巨額な借款供与を提示された。中国重視を印象づけながらも、中国に対抗する日本などから政府借款以外の民間資金供与をさらに促す戦術を採っているものとみられる。

【インドネシア政経ウォッチ】第117回 ジャワ高速鉄道事業の中断(2015年1月29日)

国家開発計画庁(バペナス)のアンドリノフ・チャニアゴ長官は1月14日、日本企業と進めている20事業の投資案件のうち、3事業を中断して事業内容の再検討を行うと発表した。併せて、その3事業のなかに、日本の新幹線方式の導入を検討してきたジャワ高速鉄道事業が入ることを明らかにした。

ジャワ高速鉄道事業では、ジャカルタ特別州~東ジャワ州スラバヤ間の全長約730キロメートルのうちのジャカルタ~西ジャワ州バンドン間の約140キロメートルに関する実現可能性調査が2014年1月からすでに進行中である。ジャカルタ~バンドン間の敷設費用は約5,000億円、20年完成、所要時間は37分、運賃は20万ルピア(約1,880円)と想定された。全線開通時のルートは、ジャカルタ~バンドン~チレボン~中ジャワ州スマラン~スラバヤと計画された。

ジャワ高速鉄道事業は、ユドヨノ政権下で前向きに検討されていたが、国鉄クレタ・アピは当時からすでに消極的な姿勢を示していた。続くジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権で、国鉄のジョナン社長が運輸相に就任したことも、ジャワ高速鉄道事業中断の大きな要因といえるかもしれない。

ジョナン大臣は、ジャワ高速鉄道事業に使う予算をジャワ以外での鉄道建設・整備に充てる意向を表明した。スマトラやカリマンタンでの石炭輸送や鉄道複線化のほか、スラウェシやパプアでの鉄道建設を進める。これは、経済開発における地域間格差の解消、ジャワ以外でのインフラ整備の優先、という現政権の基本路線を基にしている。外部資金の活用も債務負担増につながるとして難色を示している。もっとも、これらジャワ島外の鉄道整備・建設の費用対効果が十分かどうかは甚だ疑問である。

他方、ジャワ高速鉄道事業には中国が強い参入意欲を見せている。それを受けて、ジョコウィ大統領は14年11月に中国企業を招いたほか、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で訪中した際、北京~天津間の高速鉄道に試乗した。それは日本が実現可能性調査を実施中の出来事であり、今後の展開を注意深く見守る必要がある。

【インドネシア政経ウォッチ】第108回 外交デビューは積極的な投資セールス(2014年11月13日)

ジョコウィ大統領の外交デビューは、中国・北京で開催中のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議となった。何よりも、新大統領としての自分を各国首脳に知ってもらうことが最も重要である。

英語が流暢なユドヨノ前大統領とは対照的に、ジョコウィは各国首脳との会談でインドネシア語を使った。彼は英語が大丈夫なのかという不安がよぎったのも束の間、トップ・ビジネスマンが集った最高経営責任者(CEO)サミットの場で、映像や画像を使い、原稿なしの英語でプレゼンテーションを行った。インドネシア語を使ったのは、あくまでも、国家や政府を代表する公式会談では自国語を使うという原則に従ったにすぎなかった。

CEOサミットでのプレゼンテーションで、ジョコウィはインドネシアの今後の発展可能性を示しただけでなく、「インドネシアに投資をするなら今しかない」「チャンスを逃すな」と攻めの姿勢を貫いた。就任して間もないのに、新人として控えめに振る舞うことなく、百戦錬磨のCEOを相手に積極的な投資セールスを行ったのである。

ジョコウィは、インドネシアの全在外公館に対して、インドネシアを売り込むセールスマンの役割を果たし、具体的な成果を出すよう求めている。自ら率先して投資セールスを行い、在外公館が続かざるを得ない雰囲気を作るのがジョコウィ流といえる。

しかし、いくらセールスをしても、肝心の投資許認可手続きが改善されなければ、全く意味がない。もちろん、ジョコウィはそれを重々承知している。彼が大統領に就任後、最初に抜き打ち視察を行ったのが投資調整庁(BKPM)であったことは記憶に新しい。それがあったからこそ、今回、北京での投資セールスが意味を持ってくるのである。

外資企業からはジョコウィ政権のナショナリズム的性格を懸念する声も出ているが、今回の投資セールスはその懸念を払拭しようとするものでもある。ただし、外資ならば何でもよいというわけではない。外資側にも、「インドネシアにとってのメリットは何か」をしっかり説明することが求められてくるだろう。

【インドネシア政経ウォッチ】第107回 スンダ海峡大橋の建設を凍結(2014年11月6日)

ジョコウィ新政権の重要課題の一つは、言うまでもなくインフラ整備である。しかし、インフラ整備への取り組み方については、ユドヨノ前政権とは異なる考えを示し始めた。

10月31日、アンドリノフ・チャニアゴ国家開発計画大臣/国家開発企画庁(バペナス)長官は、ジャワ島とスマトラ島を結ぶスンダ海峡大橋の建設計画を凍結することを明らかにした。その理由として、225兆ルピア(約2兆1,000億円)という膨大な投資額に加え、既存の連絡船舶や港湾整備のほうが喫緊の課題であることを挙げた。

インフラが整っていない東部との地域格差を助長することや、周辺・沿線の不動産価格の高騰により住民に低価格で住宅を提供することが困難になることも問題とみている。スンダ海峡大橋は、海洋利用、人間・コミュニティ開発を優先する新政権の方針にマッチしない、という判断である。

スンダ海峡大橋の建設は、スカルノ時代の1960年から構想されていたが、具体化は2009年にランプン州とバンテン州がプレF/S調査結果を公表してからである。スマトラ南部で豊富な石油ガス・石炭といった天然資源を首都ジャカルタ周辺に供給しやすくし、一大産業開発ベルト地帯をつくることが計画されていた。

当時、半島部のマラッカとスマトラ島のドゥマイとを結ぶマラッカ海峡大橋の構想がマレーシアから出されていた。政府は、スンダ海峡大橋を優先してより早期の建設を推進する方針を打ち出し、ユドヨノ政権では経済開発加速化・拡充マスタープラン(MP3EI)の目玉とした。

その旗振り役を務めたのが南スマトラ州出身のハッタ・ラジャサ経済調整大臣(当時)であり、副大統領候補(後に落選)となったハッタの後任であるハイルル・タンジュン経済調整大臣も、在任中に建設促進のための政府機関づくりを急いだが、結局、実現しなかった。

スンダ海峡大橋計画の凍結は、インフラ問題解決を最優先するという新政権の意向が如実に示されたものである。MP3EIも見直される見込みで、中進国入りを視野に入れた中長期のインフラ整備計画がしっかり立てられるのかどうか、気になるところである。

【インドネシア政経ウォッチ】第80回 政府、工業団地開発に積極的関与へ(2014年3月27日)

2013年工業法の成立を契機として、政府が工業団地の量的・質的向上へ積極的に関わる姿勢を見せ始めている。インドネシアでは工業団地の9割以上が民間主導で開発されたことから、政府には、マレーシアのように政府主導で開発を進めた国に比べて土地収用が遅れ、用地価格も高めになったという認識がある。

政府は、14年から、品質基準を定めて工業団地を評価し、2年間有効の認定証を出すほか、優秀な工業団地を表彰することを検討している。また、ジャカルタ周辺から地方への産業分散を図る観点から、25年にジャワ島外の工業生産比率を40%以上にすることを目標に、特にジャワ島外での工業団地開発を促す意向である。

工業団地は現在、全国に74カ所・約3万ヘクタールあるが、そのうちジャワ島には55カ所・2万2,796ヘクタールが集中する。しかもそのほとんどはジャカルタ周辺に立地する。残りはスマトラ島に16カ所、スラウェシ島に2カ所、カリマンタン島に1カ所である。今後、少なくとも20カ所、合計約3万ヘクタールの工業団地開発が計画されている。

ジャカルタ周辺の工業団地拡張の余地は限られている。西ジャワ州カラワン県は、空間計画による工業向け用地2万ヘクタールが満杯となったとして、新たな工業団地向け認可を行わない方針を示した。全国有数の米作地でもある同県には、農業用地を確保する狙いもある。今後の工業団地開発では、まだ余地の大きい東ジャワ州、中ジャワ州、ジャワ島外への注目度が増すだろう。

ジャワ島外の工業団地は、経済特区(KEK)指定と絡めた展開となる。中国などが工業団地開発に興味を示しているが、経済特区といえども、投資企業自身がインフラ整備をせざるを得ないのが現状である。

インドネシアの工業団地開発は、実は1989年まで国営企業が担っていたが、需要増加に追いつけず、民間の参入を認めて対応した経緯がある。政府の積極的な関与が民間の事業意欲を圧迫しないことを願うばかりである。

【インドネシア政経ウォッチ】第77回 北スマトラの電力危機は続く(2014年3月6日)

長引く北スマトラ州の電力危機が国家的課題として取り上げられ始めた。2月27日の閣議で、ユドヨノ大統領が電力供給問題、特に壊れた発電機の早急な修繕を命じた。

北スマトラ州で電力危機が言われ始めてから、すでに10年近くが経過している。2005年から10年間で計1,000万キロワット規模の電力供給増加計画も立てられていた。 たとえば、09年にラブハン・アンギン火力発電所から33万キロワット、10年にアサハン第1水力発電所から18万キロワット、11年にパンカラン・スス火力発電所から40万キロワット、といった具合である。北スマトラ州には火力発電所に加えて水力発電所や地熱発電所もあり、これらが順調に動けば、電力は十分に足りる計算だった。

ところが、これらの発電所の建築許可が地方政府から下りない。たとえ発電所が運転可能となっても、用地買収が進まないために送電所が建設できない。さらに、アチェ州のアルン天然ガス田から引く予定のガスパイプラインの建設が終わらず、火力発電所へのガス供給のめどが立たない。そして、官僚制や汚職の問題も見え隠れする。

加えて、州内の複数の火力発電所で中国製発電機が故障して止まり、その修繕のめどが立たない。ユスフ・カラ前副大統領は、「当時、政府の資金不足で中国製を選択してしまったが、メンテナンス面を考えなければならなかった」と述べている。発電所を建設する資金の85%を中国側が負担するというスキームも破綻し、結局は国営電力会社(PLN)が穴埋めせざるを得なくなった。これらの結果、現時点では目標の1,000万キロワットのうち650万~750万キロワット程度しか達成できず、計画停電を余儀なくされている。

中国製発電機の問題については、非効率で高度な汚染源になるとして、中国が40万キロワット以下の発電所の建設を禁止したため、売れ残った発電機が上乗せ価格でインドネシアへ売られた疑いも指摘されている。

しかし、北スマトラ州の電力危機は待ったなしで、戦犯探しや政略を弄(ろう)している余裕はない。官僚制や汚職の問題にも切り込む必要があるだろう。

【インドネシア政経ウォッチ】第63回 国際収支安定のための外資規制緩和(2013年11月14日)

今年は3年に1度の投資ネガティブリストの改訂が行われる年である。しかし、当初、10月ごろと見られていた改訂リストの発表は遅れ、年末になりそうだ。外資規制を緩和したい経済調整大臣府や投資調整庁と、外資規制を強化して国内企業の育成を目指したい各省庁との間で、さまざまな駆け引きが行われている様子である。

昨今の厳しい経済状況で、改訂リストはより規制を緩和する方向へ向かいそうだ。何よりも今、政府に求められるのはマクロ経済の安定であり、軟化する通貨ルピアのしなやかな防衛である。そのためには、国際収支の安定が不可欠であり、経常収支の赤字を埋め合わせる資本収支の黒字が必要になる。そして、出入りの素早い証券投資よりも直接投資の増加が最重要になる。国際収支の安定のためにこそ、外資規制緩和が必要となるのである。

先週、ネガティブリスト改訂の内容が一部明らかにされたが、大きく2つの注目点がある。第1に、事業効率化のために外資を活用するという点である。なかでも、空港・港湾の管理運営に100%外資を認めるなど、なかなか進まないインフラ整備・効率化で外資を活用する意向が示された。インフラ投資に参入したい外資は多く、歓迎されよう。

第2に、輸出指向型外資をより重視したことである。消費活況の続くインドネシア国内市場を目指す外資よりも、インドネシアを生産拠点とし、輸出することで国際収支の安定に寄与する外資を求めている。輸出指向型外資への優遇策は、1980年代後半~1990年代前半に採られ、労働集約型産業が発展したが、その後競争力は低下した。今後の輸出産業としては二輪車・自動車と油脂化学が期待される。

早速、識者からは経済における外資シェア拡大への危惧が現れた。しかし政府は、外資への依存度を高めるというより、国内企業に外資との競争を促そうとしているようである。インドネシアの自信の表れといえるが、国内企業がその意図を汲み取って行動できるかが課題である。