【インドネシア政経ウォッチ】第103回 宗教をめぐる新たな動き(2014年10月9日)

ジョコウィ次期大統領がジャカルタ特別州知事を辞任し、規定に従って同州のアホック副州知事が州知事に昇格する。しかし、イスラム擁護戦線(FPI)などイスラム強硬派の一部が、アホックの昇格に反対するデモを繰り返している。彼のこれまでの言動が過激で思慮を欠くということのほか、華人でキリスト教徒ということを反対の理由としている。

先のジャカルタ特別州知事選の際にも、FPIなどはジョコウィと組んだアホックに対して同様の批判を行ったが、選挙結果を左右することはなかった。アホック自身、かつて9割以上の住民がイスラム教徒であるバンカブリトゥン州東ブリトゥン県知事を務め、在任中に多数のモスクを建設したことで大きな支持を得ていた。

しかし、FPIなどの行動には一貫性がない。FPIはアホックを批判する一方で、新たに選出されたゴルカル党のスティヤ・ノバント国会議長(キリスト教徒)はむしろ歓迎している。イスラム教を建前にしているが、ただ単に「アホックが嫌いだ」という感情的な理由で動いていることの証左である。FPIなどがアホックを批判するのは、彼が地方首長選挙法に反対して、所属していたグリンドラ党を離党したことも関係があるはずである。

アホックは「身分証明証の宗教欄をなくすべき」とも主張し、それを支持する知識人らも現れた。ジョコウィ新政権構想でも、一時、宗教省を廃止する案が有力視されたが、時期尚早として見送られた。宗教欄や宗教省の廃止論の背景には、宗教の政治利用だけでなく、アフマディヤなどイスラム教少数派への多数派からの迫害を防ぐ意味がある。

他方、政府内には、宗教の定義自体を緩めようという見直し論も出ている。宗教省は、規定の6宗教以外の地方宗教についても、信仰ではなく宗教として認める可能性を探るため、実態調査を開始する。「唯一神信仰」という建国五原則(パンチャシラ)の第一原則との食い違いの問題はあり得るが、注目すべき動きである。

【インドネシア政経ウォッチ】第102回 ユドヨノは民主主義の破壊者?(2014年10月2日)

懸念されていた事態が起こった。9月26日午前1時半ごろ、国会は賛成226、反対135で地方首長選挙法案を可決した。これで10年前から続いてきた地方首長直接選挙は廃止され、その前の形式、すなわち、地方議会が地方首長を選ぶ間接選挙へ戻ることになった。

賛成したのは前の大統領選挙で敗北したプラボウォ=ハッタ組を支持した政党、反対したのは勝利したジョコウィ=カラ組支持の政党である。しかし法案可決の主役は、中立を装った民主党だった。民主党は、10条件付きで直接選挙という案を示し、闘争民主党などジョコウィ=カラ組が土壇場でそれを飲んだ。ところが、国会議長が民主党案を認めなかったという理由で、民主党は議場から退場した。これが法案可決の決め手になった。

民主党の退場を歓迎したプラボウォ=ハッタ組からは、「当初のシナリオ通り」という声も聞こえた。元々、プラボウォ=ハッタ組は、大統領選挙に勝利した場合、民主党へ重要ポストを約束していた。今回、退場を先導したヌルハヤティ民主党会派代表には、次期国会での副議長ポストがほのめかされていた。

最後の外遊中のユドヨノ大統領は、自らが党首を務める民主党の行動に驚きを見せた。ユドヨノは「10条件付きで直接選挙」を堅持し、必ず投票するように民主党へ指示していたからである。すぐに、地方首長選挙法の違憲審査を党として憲法裁判所へ申請すると息巻き、打開策を検討し始めた。

しかし、間接選挙を中身とする法案を提出したのはユドヨノ政権で、国会で法案成立を見届けたガマワン内相はユドヨノの代理となる。つまり、ユドヨノが地方首長選挙法に反対するのは矛盾である。国民には、ユドヨノが自分を悪者にしないための演技としか映っていない。

皮肉なことに、京都で立命館大学から「インドネシアの民主化に貢献した」として名誉博士号を授与されたユドヨノは、帰国後ただちに、「民主主義の破壊者」との痛烈な批判に迎えられたのであった。

【インドネシア政経ウォッチ】第101回 ジャワ島の水田が消えてゆく(2014年9月25日)

好況で投資ブームに沸くインドネシアは、人口ボーナスも続き、中長期的な成長可能性が大きいが、実はその陰で深刻な問題が露呈している。コメの供給問題である。

インドネシア人の主食は今、9割以上がコメである。1950年代頃は主食に占めるコメの比率が5割程度で、キャッサバ、トウモロコシ、サゴヤシでんぷん、イモなども主食の一角を占めていた。ところが、70年代のいわゆる「緑の革命」でコメの高収量品種が導入されて生産が急増したため、主食のコメへの転換が進んだ。その結果、インドネシアの食糧政策の基本はコメの自給・供給確保となった。

しかし、そのコメを作る水田面積が減り続けている。9月21日付コンパス紙によると、2006年から13年の7年間、毎年約4万7,000ヘクタールが新田開発された一方で、毎年約10万ヘクタール以上が、宅地や工業用地など水田から他目的の用地へ転換された。

中央統計局によると、水田面積は02年に1,150万ヘクタールだったのが、10年後の2012年には808万ヘクタールへと減少した。とくにジャワ島では561万ヘクタールから344万ヘクタールに減少し、過去10年間の全国の水田減少面積の63.4%を占めた。米作の中心地であるジャワ島の水田面積の減少は今後も進行していくものとみられる。

水田面積の減少にもかかわらず、コメの生産量は、02年の5,140万トンから12年には6,874万トンへ増加した。コメの土地生産性は大きく上昇し、今やタイを上回るという。しかし、農家世帯あたりの水田面積は、タイの3.5ヘクタールに対して、インドネシアは0.3ヘクタールに過ぎない。

若者はどんどん農村を離れ、農業の後継者不足が深刻化している。少額とはいえ土地建物税が課され、収益の少ない水田を、農家が売ろうとすることを抑えることは難しい。

政府には、コメ生産向けの肥料補助金の効果的利用や農家子弟の教育のための奨学金を増やすなどの考えがあるが、コメ生産の零細性を変える抜本的な農地改革に取り組めるかどうかが注目される。

【インドネシア政経ウォッチ】第100回 地方首長選挙法案とプラボウォのリベンジ(2014年9月18日)

国会で審議中の地方首長選挙法案をめぐって、大きな議論が巻き起こっている。同法案では、地方首長選挙を国民が一票を投じる直接選挙から、地方議会が選出する間接選挙へ変更する案が有力である。直接選挙は資金がかかりすぎて非効率であり、汚職撲滅も予想ほど進まなかったことが背景にある。

問題なのは、議論の中身だけではない。間接選挙への変更を支持する国会6会派は、いずれも大統領選挙で敗れたプラボウォ=ハッタ組の「紅白連合」に属する。

憲法裁判所に不服申し立てを却下され、大統領選挙での敗北を認めさせられた「紅白連合」に所属する政党は、新国会および新地方議会では多数派を占める。新国会・新政権発足前の現国会会期中に地方首長選挙法案を通せば、全国のほぼすべての議会で「紅白連合」は自らに都合の良い地方首長を選ぶことが可能となる。

すなわち、ジョコウィ=カラ政権は、プラボウォの息のかかった全国の地方首長・地方議会と対峙(たいじ)することになり、政権運営が不安定になる。新政権に揺さぶりをかけ、あわよくば任期途中で政権を崩壊させて大統領選挙に持ち込み、そこでプラボウォが再起を期す。いや、国会で大統領直接選挙をも間接選挙へ変更させてしまうかもしれない。これらの変更は行き過ぎたリベラリズムのイデオロギー的修正だ、という声さえ聞こえてくる。

まさに、プラボウォのリベンジである。そしてこれは時間の勝負となる。つまり、政策やイデオロギーとは関係ない「紅白連合」をプラボウォの政治母体として維持させるには、新政権発足前に法案を決着させなければならない。しかし、時間が延びると、ジョコウィ政権側へなびく政党が続出して、プラボウォのリベンジ・シナリオは崩壊する。

たしかに、インドネシア民主化の到達点ともいえる地方首長直接選挙には、まだ改善の余地がある。しかし、今の動きは国民不在の政治ゲームに過ぎない。国民はプラボウォの悪あがきに対して、とっくに愛想を尽かしている。

【インドネシア政経ウォッチ】第99回 カキリマの合法化(2014年9月11日)

ジャカルタ首都特別州は、カキリマと呼ばれる移動式屋台や露店の合法化を開始した。カキリマとは5本足という意味で、移動式屋台にある2つの車輪、営業場所で屋台を固定する支え棒、それに人間の足2本、の5本の「足」があることから「カキリマ」と呼ばれる。カキリマは、都市雑業層、いわゆるインフォーマル・セクターを象徴する存在である。

州政府は、カキリマに対して事業内容票の作成、州営バンクDKIへの預金口座開設、デビットカード機能付きの会員証の作成を求め、それを満たせば、カキリマを正式の商業活動として認めることとした。カキリマはこれまで1日5,000ルピア(約45円)の場所代をクルラハン(地区)治安秩序員へ現金で支払ってきたが、今後それは、州利用者負担金(retribusi)として、デビットカードによる自動引き落としの形で支払うことになった。

インフォーマル・セクターに属するカキリマは、正式の営業許可も場所の使用許可もなしに活動し、それが故にいつでも警察の取り締まりの対象になるという恐怖感を持つとともに、警察に対抗して彼らを守る「ならず者集団」(プレマン)に金を払ってでも従属せざるを得ない、という弱い立場にあった。参入障壁の低いカキリマは、こうしてなかなか近代的な商業活動へ育つことが難しかった。

そこへ行政が介入した。州政府がカキリマを強制排除せず、フォーマル・セクターへ導く役目を果たし始めた。カキリマの営業上の権利を守る一方、そのために必要な義務を果たすよう求めている。たとえば、先の条件が満たせなければ、カキリマの営業は認められない。また、歩道や公園でのカキリマの営業は認めない方向で、シンガポールのように特定の場所へカキリマを移転させていくことが予想される。

これは、ジョコウィ=アホックのコンビが率いるジャカルタ首都特別州で起こっている変化の一コマである。果たして、ジョコウィ次期大統領の下で、こうした変化が全国各地で見られるようになるのだろうか。

【インドネシア政経ウォッチ】第98回 難しいカカオの品質向上(2014年9月4日)

インドネシアがコートジボアールに次ぐ世界第2位のカカオ生産国であることは、日本であまり知られていない。インドネシアのカカオは、その多くが未発酵カカオであり、チョコレート原材料としてこれまで重視されてこなかった。実際、インドネシア製のチョコレートでも、香りを出すためにガーナ産の発酵カカオを3割ほど混ぜている。

なぜ未発酵カカオが主なのか。それは、発酵カカオと未発酵カカオとの買付価格にほとんど差がないためである。カカオを発酵させるには7~10日間かかる。しかし価格差がなければ、農民は未発酵のまま売って早く現金を手にしたい。

ビスケットやパンなどに使われる低級チョコや、化粧品などに使われるカカオ油脂は、発酵カカオでも未発酵カカオでも中身に変わりはない。このため、カカオの輸出業者がチョコレート用以外の用途に使うカカオを手早く安定的に調達するため、発酵カカオと未発酵カカオを区別しなかったものとみられる。

ただ、2010年からカカオ豆に輸出税がかけられたことを契機に、この状況に変化が現れた。カカオバターやカカオパウダーなどを製造するカカオ加工工場の建設が進められ、カカオ豆の流れが輸出業者から加工工場へと変化したのである。10年のカカオ輸出は約45万トン、工場向けは約15万トンだったが、12年には前者が約16万トン、後者が約31万トンに逆転した。加工工場が未発酵カカオと発酵カカオとの価格差を1キログラム当たり約2,000ルピア(約18円)としたことで、品質向上への期待も高まった。

現在のカカオの国際市況は過去最高に近い状況で、輸出商の買取価格は3万8,000ルピアに達している。他方、加工工場は稼働に必要な需要を満たすため、輸入のほか、たとえ未発酵カカオでも買取価格にプレミアムを付け、輸出商の買取価格よりも高く提示する。このため、農家レベルではやはり未発酵カカオを選好する傾向が改まらない。インドネシアのカカオは、再び、品質向上の契機を失ってしまうのだろうか。

【インドネシア政経ウォッチ】第97回 憲法裁判断にみる民主主義の成熟(2014年8月28日)

8月21日、憲法裁判所は裁判官全員一致で、プラボウォ=ハッタ組から出された大統領選挙に対するすべての不服申し立てを棄却した。これにより、7月22日に総選挙委員会が発表した大統領選挙でのジョコウィ=カラ組の勝利が確定し、正式に次期正副大統領となった。プラボウォ=ハッタ組も憲法裁判所の判断を受け入れた。

プラボウォ=ハッタ組は当初、「証拠書類をトラック10台分用意する」などと豪語していたが、実際の証拠書類はトラック5台分に過ぎず、かつ証拠として不備が多かった。証人の多くも事実に基づかない証言に終始し、裁判官が思わず失笑する場面さえあった。これに対し、訴えられた側の総選挙委員会はトラック21台分の証拠書類を用意し、必要に応じて密封された投票箱を開封するなどの対応を行った。

プラボウォ=ハッタ組は、連日、憲法裁判所前へ支持者の動員をかけた。動員されたのは、イスラム擁護戦線(FPI)、パンチャシラ青年組織(Pemuda Pancasila)、パンチャマルガ青年組織(Pemuda Panca Marga)などの暴力沙汰をよく引き起こす団体。金属労連などの労働組合組織も加わった。

しかし、彼らの抗議デモは、4,000人の警察官による催涙ガスや放水などによって抑えこまれた。ジャカルタ市内には「暴動が起こるのではないか」という噂が強く流れたが、一部で交通渋滞が発生したほかは、平穏に終わった。

暴力集団の動員や暴動の噂による威圧は、結果的には、憲法裁判所の判断に何の影響も与えなかった。もともと、プラボウォ=ハッタ組による不服申し立ての稚拙な内容からして、大統領選挙結果が覆る可能性はほとんどなかった。

しかし、憲法裁判所はこの不服申し立てを決してないがしろにせず、手続きに従って丁寧に対応した。国民の多くは、大統領選挙後のプラボウォの態度に大きく失望したが、不服申し立て自体は制度上認められた権利であるとし、静かに見守った。そこに見られたのは、インドネシアにおける民主主義の成熟であった。

【インドネシア政経ウォッチ】第96回 来年度国家予算案は大幅見直しか(2014年8月21日)

8月15日、ユドヨノ大統領の最後の独立記念日演説があった。2期10年の成果、とくに民主化システムの定着を自賛する内容で、演説は大きな拍手を持って終わった。

同時に、2015年度国家予算案が提示された。予算規模は、国家歳入総額が1,762兆3,000億ルピア(14年補正予算比7.8%増)、国家歳出総額2,019兆9,000億ルピア(同7.6%増)と引き続き赤字予算で、これを国債等で埋める。財政赤字の対GDP比率は2.32%に抑える。

予算案の算出根拠となる15年の想定経済指標は、GDP成長率が5.6%、インフレ率が4.4%、3カ月物政府証書利率が6.2%、為替相場が1米ドル=11,900ルピア、インドネシア原油価格が1バレル当たり105米ドル、原油生産量が日量84万5,000バレル、ガス生産量が原油換算で日量124万8,000バレル、となっている。

予算案の最大の焦点は、補助金削減ができるかどうかにある。予算案では、電力向け補助金は14年補正予算比30.3%減と大幅にカットする一方、石油燃料向けは同18.1%増、非エネルギー向けは32.8%増と大きく増加させた。こうして、補助金全体で国家歳出と同じ伸びに抑え、何としてでも補助金が突出しないように留意した様子がうかがえる。

さっそく、ジョコウィ次期大統領と次期政権移行チームがこの予算案にかみついた。これでもまだ補助金削減の努力が足りない、という批判である。さらに、この予算案には、ジョコウィ側の意見や考えは反映されていない。プラボウォ側が憲法裁判所に異議申し立てをして係争中で、大統領選挙結果が21日まで確定していないためである。

ジョコウィ側は、この予算案のままでは自らの政策実施の自由度が相当に縛られると意識しており、補助金削減だけでなく、その他の予算でも無駄を省く大幅な見直しを行いたい意向である。現政権も次期大統領側と話し合って予算案を変更するとしているが、時間的に間に合うかどうかがカギとなる。

当然、各省庁が予算削減に強く抵抗するのは間違いない。ジョコウィと既存官僚組織との戦いは既に始まってい

【インドネシア政経ウォッチ】第95回 プラボウォの大統領職への執念(2014年8月14日)

7月22日に総選挙委員会(KPU)が大統領選挙でのジョコウィ=カラ組の勝利を確定する少し前に、プラボウォ=ハッタ組は、大統領選挙が不正まみれだったとして、選挙プロセスからの離脱を宣言した。プラボウォ=ハッタ組は敗北を認めないだけでなく、KPUが組織ぐるみで不正選挙を行ったと訴えたのである。

当初、大統領選挙結果への不服申し立てを行わないとしていたプラボウォ=ハッタ組ではあったが、そのままでは自らの正当性を確立できないため、結局は7月26日に憲法裁判所へ訴え出た。

不服申し立てに関する憲法裁判所での審議は8月6日に開始。プラボウォ=ハッタ組は、書類の提出や証人の出廷により不正を証明しようとしたが、KPUやジョコウィ=カラ組から反論されたり、憲法裁判所から再度にわたって事実に基づく証言を求められたりした。プラボウォ=ハッタ組は、憲法裁判所前に支持者の動員をかけるなどして圧力をかけたが、審議自体への影響力は乏しかった。

現実的にみて、プラボウォ=ハッタ組が憲法裁判所で勝てる見込みはない。今の構図からすると、不服申し立てが認められなければ、KPUと同様、憲法裁判所を批判の矛先とする可能性もあり得る。どこかでプラボウォ=ハッタ組が矛を収められる落とし所を探らなければならないのだが、その筋書きがまだはっきりと見えていない。

それにしても、大統領職へのプラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官の執念は並大抵ではない。軍の後輩で、1998年の活動家拉致事件などをめぐり、プラボウォの軍籍離脱を求めた将校の一人であるユドヨノ氏が、民主党を設立して先に大統領となった。それを見ながら自分もグリンドラ党を設立し、大統領を目指した。

プラボウォは、スハルト時代以来の自身に対する悪名や誹謗を一掃するには、自ら大統領になるしかないとの一心で政治人生を突っ走ってきたのだと想像する。「政治家としては未熟だ」と公言する彼は今、その政治人生の墓穴を未熟のまま掘り続けている。

【インドネシア政経ウォッチ】第94回 民主主義は守られた(2014年7月24日)

インドネシア総選挙委員会(KPU)は7月22日、大統領選挙の開票確定結果を発表し、ジョコウィ=カラ組が7,099万7,833票で当選した。ここでの得票率53.15%は、7月9日の投票後に出された8社のクイックカウント結果とほぼ同じで、真偽の疑われたクイックカウントの信頼性が再確認された。

大統領選挙では、誹謗・中傷のネガティブキャンペーンもさることながら、投票集計表などの原データ自体を改ざん・捏造しようとする動きが執拗に見られた。それを防ぐため、KPUは全国に54万6,278カ所ある投票所の投票集計表を一つ一つスキャンし、ウェブサイトに掲載するという措置を採った。集計プロセスが信頼されていれば必要のない、日本では見たことのないやり方である。

そして、カワル・プミル(「総選挙を守る」の意味)という名の民間組織を通じて、約700人のボランティアがスキャンされた投票所単位の集計結果を入力し、カワル・プミルのサーバーに集約させた。ボランティアは国内だけでなく国外にも散らばり、カワル・プミルのフェイスブック・ページに登録した者のみがサーバーにアクセスできた。

すなわち、KPUの正式の開票・集計プロセス以外に、カワル・プミルが投票所レベルのデータを基にして独自に集計を行ったのである。これにより、KPUの開票・集計プロセスで原データの改ざん・捏造が起こらないようにチェックし、起こった場合でもどこで起こったかを追跡できる状況を作り出した。

実際、カワル・プミルのサーバーは、ハッカーから激しいサイバー攻撃を受けた。幸いにもサーバーは守られたが、そこまでしてデータの改ざんを画策した勢力がいたのは驚きである。改ざん・捏造されたデータが公式結果となっていたら、選挙だけでなくそれを実施した政府や国家への信頼が失墜したはずである。

カワル・プミルのボランティアたちの活躍でインドネシアの民主主義は守られた、と言ったら言い過ぎだろうか。でも、早くカワル・プミルが不要な状況になってほしいものである。

【インドネシア政経ウォッチ】第93回 プラボウォ陣営の不気味な自信と焦り(2014年7月17日)

大統領選挙は7月9日に投票が行われたが、クイックカウントで調査会社8社がジョコウィ氏、4社がプラボウォ氏の勝利と伝え、両者ともに勝利宣言を行う事態となった。当初から予想された動きではあるが、ユドヨノ大統領は両者を私邸へ呼び、自省を呼び掛けた。

プラボウォの勝利を伝えたクイックカウントの4社には、同陣営の選対幹部ハリー・タヌの所有するテレビ局の関連会社や、かつて南スマトラ州知事選挙でクイックカウントの捏造を行った会社が含まれている。クイックカウント実施会社が共同記者会見を開いた際に、これら4社は欠席した。ジョコウィの勝利を伝えた会社は定評があるが、多くがジョコウィ支持を打ち出していたため、中立性に疑問が呈された。今回の件で、クイックカウントに対する信頼が失われる懸念がある。

7月22日の総選挙委員会(KPU)による公式開票結果の発表へ向けて、両陣営の駆け引きはリアルカウントへと舞台が移った。両陣営とも、それぞれの勝利を正当化する数字を出している。このリアルカウントでKPUの開票プロセスに影響を与えようとしている。

KPUのウェブサイトには、投票所ごとの開票集計結果表がスキャンされて掲示されているが、そのなかに不正の疑いのあるものが発見された。合計が合わない、空白だった百の桁に1などの数字が加えられた、両陣営の証人の署名がない、などの欠陥がある。またマレーシアからの郵送投票の9割がプラボウォ票だったことが問題視されており、公式の集計結果表が偽造・捏造される懸念が高まっている。

国会では議会構成法が改正され、国会議長を総選挙結果の第一党から自動的に選ぶ形から国会議員の投票で選ぶ方法へ変更された。プラボウォ陣営はこれを「プラボウォ当選への布石」と位置づけたため、今回第一党となった闘争民主党が激しく反発している。

まさか「プラボウォ当選」のシナリオ通りに事が進んでしまうのか。不気味な自信を見せるプラボウォ陣営だが、焦りも交じる。

【インドネシア政経ウォッチ】第92回 元憲法裁長官に無期懲役判決(2014年7月10日)

ジャカルタ汚職裁判所は6月30日、地方首長選挙結果の最終判断に絡んで収賄を繰り返してきた元憲法裁判所長官のアキル・モフタル被告に対して、無期懲役の判決を下した。合わせて、100億ルピア(約8,700万円)の罰金を科し、国民としての権利である選挙権・被選挙権を剥奪した。

この判決はもちろん、これまでの汚職裁判での最高刑である。スハルト政権崩壊後の改革(レフォルマシ)の時代のなかで、司法改革の目玉となったのが違憲審査を行う憲法裁判所の新設であり、汚職撲滅委員会とともに国民から高い信頼を受けてきた機関であった。しかし、今回のこの汚職事件により、憲法裁判所への国民の信頼は地に落ちた。アキル被告への無期懲役の判決は、その信頼失墜の責任も負わされたものであった。

地方首長選挙の開票結果に不服がある場合、憲法裁判所に対して不服申立がなされ、憲法裁判所が審査したうえで判断を下す。そこでは、憲法裁判所の判断をチェックする機関はなく、憲法裁判所の判断がそのまま最終結果となる。アキル被告はこれを悪用し、申立者からの収賄を繰り返したのである。

今回の裁判でアキル被告が収賄を行ったと証明されたのは、バンテン州レバック県知事選挙、中カリマンタン州グヌンマス県知事選挙、東南スラウェシ州ブトン県知事選挙、東ジャワ州知事選挙、パプア州の4県知事選挙・1市長選挙など、合計14の地方首長選挙であり、収賄総額は572億8,000万ルピアと50万米ドル(計約5億5,000万円)に達する。

アキル被告は控訴する意向を示した。憲法裁判所は自浄努力を進め、国民の信頼回復に努めているが、本当にアキル被告一人の特殊ケースとして片付けられるのだろうか。

7月9日に大統領選挙の投票が行われた。僅差と言われた一騎打ちの今回、負けたとされた陣営が開票結果への不服申立を憲法裁判所へ持ち込む。その際に、果たして憲法裁判所は公正に判断できるのか。そこで再び贈収賄が行われない保証はどこにもない。

【インドネシア政経ウォッチ】第91回 東ジャワ3自治体で業種別最低賃金導入(2014年7月3日)

東ジャワ州は、メーデー1日前の2014年4月30日付州知事令により、パスルアン県、シドアルジョ県、スラバヤ市の3自治体において、14年業種別最低賃金を設定した。対象となるのは、海外直接投資(FDI)企業、株式公開している国内直接投資(DDI)企業、国営企業である。

業種別最低賃金は、すでに西ジャワ州ブカシ県やカラワン県などで導入されており、業種ごとに、既に定められた最低賃金に一定比率を上乗せする形となっている。

業種別最低賃金は、就業期間が1年未満の労働者に対してのみ適用される。これに伴う就業期間1年以上の労働者の賃金改定は、経営者と労働者・労働組合との間で書面による同意を取り付けて行うこととなっている。

昨年から業種別最低賃金を導入しているパスルアン県では、今年は第1部門26業種において10.0%を上乗せした240万9,000ルピア(約2万1,000円)、第2部門11業種において7.5%上乗せの235万4,250ルピア、第3部門7業種において5.0%上乗せの229万9,500ルピア、と定められた。第1部門には金属加工、機械、家電、医薬品、化学、製紙、金融など、第2部門には飲食品加工、プラスチック製品など、第3部門には繊維、木製品・家具、ホテル業などが含まれる。ちなみに、13年業種別最低賃金は、48業種に対して一律5.0%を加えた180万6,000ルピアであった。

新たに業種別最低賃金が設けられたシドアルジョ県では、295業種に対して5.0%を加えた229万9,500ルピア、スラバヤ市では78業種に対して同じく5.0%を加えた231万ルピアと定められた。

パスルアン県とともに2013年に業種別最低賃金を定めていたグレシク県は、14年は州知事に対して導入提案をしなかった。モジョケルト県も州から業種別最低賃金の提案を求められているが、まだ対応できていない。このため、この両県での14年業種別最低賃金の導入は見送られた。

東ジャワ州は、他の県・市でも業種別最低賃金の導入を促す意向である。これは、スラバヤ市周辺が、もはや低賃金を理由に企業進出する場所ではなくなりつつあることを示している。

【インドネシア政経ウォッチ】第90回 『人民の灯火』がジョコウィを攻撃(2014年6月26日)

今回の大統領選挙戦の特徴のひとつは、候補を個人攻撃する誹謗・中傷のひどさである。総選挙監視委員会によると、ジョコウィへの攻撃がプラボウォへの8倍に達した。

なかでも、タブロイド紙『人民の灯火』(Obor Rakyat)は、「ジョコウィはキリスト教徒」「米国の手先」「メガワティの操り人形」「実は華人」など、事実を歪曲(わいきょく)した悪意ある記事でジョコウィを厳しく攻撃した。この『人民の灯火』によって、ジョコウィ=カラ組の支持率は約8%下落したと見られる。

『人民の灯火』は、ジャワ島各地のプサントレン(イスラム寄宿学校)へ広範に無料配布された。各プサントレンの住所を把握している宗教省の名簿が使われた可能性がある。 西ジャワ州バンドン中央郵便局から一括で10万袋(1袋10部程度)以上発送されたが、それだけで2億ルピア(約170万円)かかる。ジョコウィ側は、『人民の灯火』を含む自陣営への誹謗・中傷攻撃に約200億ルピア(約1億7,000万円)がつぎ込まれたと見ている。

警察の捜査等により、『人民の灯火』の編集長スティヤディが大統領府地域開発担当特別スタッフだと分かったが、大統領府は関与を強く否定した。スティヤディは先のジャカルタ州知事選挙でジョコウィに敗れたファウジ・ボウォ前知事の選対メンバーで、任期を全うせずに大統領選挙に出たジョコウィへの恨みが動機という。出版資金は自前調達したと言い張るが、誰もそれを信じていない。

攻撃記事を書いたのはダルマワンというベテラン記者で、スティヤディとはかつて週刊誌『テンポ』で一緒だった。ジョコウィを批判するネット媒体『イニラ・ドット・コム』に属し、『人民の灯火』はその系列のイニラ出版で印刷された。ダルマワンは1990年代からイスラム系雑誌等に執筆し、以前からプラボウォ周辺に近かったと見られる。

その規模から見て、『人民の灯火』は相当に組織的な作戦だったとみて間違いない。ジョコウィ側も、誹謗・中傷を否定するタブロイドをプサントレンなどへ配布し始めた。

【インドネシア政経ウォッチ】第89回 第2回討論、両者とも精彩を欠く(2014/06/19)

6月15日夜、大統領候補による2回目のテレビ討論が生中継された。今回のテーマは経済開発と社会福祉で、副大統領候補を伴わず、プラボウォとジョコウィの一騎打ちとなった。

両者とも、インドネシアの国益に沿った自立した競争力のある経済を確立する、貧困層に配慮した社会福祉を進める、といった開発の方向性に大きな違いはなかった。外国資本に対しては、表現に差はあるものの、インドネシア自身の利益に沿わない場合には規制をかけるという点で同じだった。自国民を念頭に置いた選挙運動を行っているため、実際の政策はより現実的になると予想されるものの、注意を払う必要はある。

しかし、両者の政策実施の方法論は全く違っていた。プラボウォは国富が外国資本を通じて国外へ大量に漏れていることを前提に、その漏れをなくし、国内で活用することで、インフラ整備も庶民経済も社会福祉も実現できると説いた。とくに大臣や官僚の福利厚生を高め、適切な政府介入を行うことを強調した。また、外国投資を歓迎するが、地場企業を弱体化させないことを求めた。

他方、ジョコウィは、既存の予算を精査し、効率的かつ公正に執行するための電子化を進め、燃料補助金などを削減して教育・保健へ振り向けるとした。とくに教育は彼の説く「精神革命」の根本であり、「最優先で予算配分する」と述べた。外国投資については、既存の契約の順守が基本だが、中身を精査し、国家利益を著しく阻害するものは改訂するという考えを示した。

テレビ討論を見る限り、両者とも経済は得意でない様子がうかがえた。とくにジョコウィは言葉に力がなく、いかにも自信なさげだった。一方、プラボウォは朗々と話すものの、中身が乏しかった。創造産業に関する議論で、プラボウォが「良いものは良いと認めたい」とジョコウィに賛意を示す一幕もあったが、両者とも精彩を欠き、筆者から見ると、引き分けに終わった観がある。

【インドネシア政経ウォッチ】第88回 第1回討論会はジョコウィが圧倒(2014年6月12日)

6月9日夜、正副大統領候補による第1回のテレビ討論が生中継された。テーマは民主主義、清潔な政府、法の支配の確立である。

プラボウォ=ハッタ組の弁舌は滑らかで、さすがに演説慣れしている。しかし、話のほとんどは規範的かつ一般的な内容に終始し、司会者の質問に的確に答えられない部分もあった。他方、ジョコウィ=カラ組の弁舌はややぎこちなく、持ち時間をかなり余すなど、時間を有効に使えなかった。ただ、話のなかには電子政府システムの構築や地方への予算施行など、 細かいテクニカルな内容も含まれ、司会者の質問にもほぼ的確に答えていた。

圧巻は、両者間での相互質問だった。ジョコウィ=カラ組のカラは、プラボウォが大統領に当選した場合、彼自身が関わったとされる活動家の拉致・行方不明事件など過去の人権問題へどう対処するかを質した。プラボウォは「自身が軍職を解かれたのは上官の判断」「人権問題に関わったかどうかは上官に聞いてほしい」とやや感情的に答えたが、その判断が不当であるとは訴えなかった。

間接的だが、プラボウォは公開の場でその上官の判断を容認したのである。そして、「爆弾などを使って国家破壊を企てる者たちから国を守ってきた」「罪のない多くの国民を守ってきたのが自分だ」と強調した。過去の人権問題への対応に関する答えはなかった。

一方、プラボウォはジョコウィに対して、金のかかる地方首長選挙や地方政府分立への対処法を質した。ジョコウィは、地方首長選挙の一括開催や開発効果を基にした地方政府分立案の検討を通じて、予算節約を図ると答えた。国家予算を使って地方政府を中央に従わせる「予算政治」という用語を使った。

途中、プラボウォ=ハッタ組がジョコウィ=カラ組の主張する電子政府システムに賛成するなど、第1回討論はジョコウィ=カラ組が圧倒したという見方がソーシャルメディアでは支配的だった。大統領選挙投票までにテレビ討論はさらに4回開催される。

【インドネシア政経ウォッチ】第87回 政党の党員拘束は効かない(2014年6月5日)

総選挙委員会は5月31日、書類審査、健康診断などの結果を踏まえ、プラボウォ=ハッタ組とジョコウィ=カラ組を正副大統領候補として正式決定し、翌6月1日、 前者が1番、後者が2番と候補ペア番号を確定した。そして6月4日から選挙運動が始まった。

各政党は、中立を表明した民主党を除いていずれかの候補ペアへの支持を表明したが、各党内は支持一本化でまとまっていない。最終段階でプラボウォ=ハッタ組への支持を表明したゴルカル党では、「支持と大臣ポストとを取引したことは許せない」と息巻く若手党員や退役軍人出身者のほか、カラ元副大統領の地盤であるインドネシア東部地域の党地方支部の一部が公然とジョコウィ=カラ組支持を唱えている。

ゴルカル党のアブリザル党首は、党の方針に従わない党員への処分をちらつかせるが、元党首のカラ自身が党員でありながらジョコウィと組み、それを黙認したことからも分かるように、党の方針に反する者を除名した前例がない。ジョコウィ=カラ組へは、ゴルカル党の半数以上が支持に回ると見ている。

また、ハッタが党首を務める国民信託党(PAN)では、PANの設立者であるストリスノ元党首がジョコウィ=カラ組支持を表明し、同組の選挙チームに加わった。

他方、ジョコウィ=カラ組を支持する民族覚醒党(PKB)でも、当初大統領候補としていたマフッド元憲法裁判所長官と歌手のロマイ・ラマが同党執行部への不満を露わにし、プラボウォ=ハッタ組の選挙チームへ加わった。

中立を掲げた民主党も分裂した。大統領候補選考会に出た党員も、ダラン国営企業大臣やパラマディア大学のアニス学長はジョコウィ=カラ組へ、ユドヨノ大統領の従兄弟であるプラモノ元陸軍参謀長やマルズキ国会議長はプラボウォ=ハッタ組へそれぞれついた。

このように、大統領選挙では政党による党員拘束が実はほとんど効かない。したがって、政党を軸に大統領選挙を予測するのはあまり有効ではないと考える。

【インドネシア政経ウォッチ】第86回 正副大統領候補決定、一騎打ちへ(2014年5月22日)

大統領候補届け出の締め切り1日前の5月19日、2組の正副大統領候補の出馬宣言が行われ、大統領選挙は一騎打ちとなることになった。

大統領候補のジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)知事は、ゴルカル党の重鎮ユスフ・カラ元副大統領を副大統領候補と発表し、ジャカルタ市内の「1945年闘争会館」で出馬を宣言した。ジョコウィ=カラ組は、闘争民主党(PDIP)、民主国民党(NasDem)、民族覚醒党(PKB)、ハヌラ党の4党が推薦する。出馬宣言後、2人はPDIPのメガワティ党首宅に寄った後、自転車で総選挙委員会へ出向き、 届け出を済ませた。

もう1人の大統領候補、グリンドラ党のプラボウォ党首は、ハッタ・ラジャサ国民信託党(PAN)党首・前経済調整大臣を副大統領候補と発表し(届け出は20日)、スカルノ初代大統領が住んだ「ポロニアの家」で出馬宣言をした。プラボウォ=ハッタ組は、グリンドラ党、PAN、開発統一党(PPP)、福祉正義党(PKS)、月星党(PBB)に加え、総選挙得票率2位のゴルカル党が土壇場で加わり、6党が推薦することになった。

ゴルカル党は、ジョコウィかプラボウォかで支持が揺れたが、アブリザル・バクリー党首へ一任された。まず、プラボウォへ接近するが、3兆ルピアの献金を要求されて決裂。次にジョコウィへ接近し、連携の見返りに11閣僚ポストを求めて拒否された。そして最後、プラボウォが上級相ポストをアブリザルに提示した後、プラボウォ支持が確定した。ゴルカル党は党員のユスフ・カラを支持せず、他党候補を支持することになった。

残る民主党は、大統領候補党内選考会で1位となったダラン・イスカン国営企業大臣を擁立せず、 副大統領候補にユドヨノ党首(大統領)の義弟であるプラモノ・エディ元陸軍参謀長を推し、アブリザルと組ませようとしたが、断念した。民主的な手続きを無視しても、汚職事件への関与を疑われるユドヨノ周辺を守る意味合いがあり、親族であるハッタ側につくものと見られる。

【インドネシア政経ウォッチ】第85回 ジョコウィ人気に陰り?(2014年5月8日)

大統領選挙投票日の7月9日まで2カ月となった。しかし、2期10年で任期満了となるユドヨノ大統領に代わる新大統領を選ぶというのに、ユドヨノ再選となった前回と比べても、今回はさらに盛り上がりに欠けている。

4月9日投票の総選挙(議会議員選挙)の開票確定結果は5月9日に公表される予定だが、それに基づいて各党の得票数や議席数が確定し、政党間の合従連衡を経て正副大統領候補ペアが具体的に決まるので、大統領選挙が盛り上がるとすればその後だろう。

そんな低調ムードのなか、想定される大統領候補の人気投票最新版の結果が5月4日に発表された。SMRCというコンサルティング会社によると、ジャカルタ首都特別州知事のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)の支持率は、2013年3月時点では41%だったが同年12月には51%まで上昇。それが14年2月には39%へ一気に下がり、同年3月に52%に急上昇した後、同年4月には再び47%へ下降している。

一方、グリンドラ党のプラボウォ党首の支持率は、13年6月時点で20%程度だったのが、14年4月には32%へ大きく上昇している。過去1年の支持率の変化を見ると、プラボウォの方がジョコウィよりも急上昇したことになる。

ちなみに、ゴルカル党のアブリザル・バクリー党首は14年4月現在で9%程度であり、大統領選挙は事実上、ジョコウィとプラボウォの2人で争われる形となっている。低調な雰囲気のなかで、メディアやインターネットを使ったジョコウィ陣営とプラボウォ陣営の中傷合戦は、露骨な個人攻撃も含めて激しさを増している。

もっとも、現時点で確実に大統領選挙へ出馬できそうなのは、闘争民主党と全国民主党(NasDem)が推し、民族覚醒党(PKB)も加わるのが確実なジョコウィのみである。他方、プラボウォ側は、党首を務めるグリンドラ党と他党との連立がまだ固まっておらず、焦りすら見える。その意味でも、人気がやや落ち目とはいえ、ジョコウィがまだリードを保っているといえる。

【インドネシア政経ウォッチ】第84回 LCGCと補助金付きガソリン(2014年4月24日)

インドネシアでは低価格グリーンカー(LCGC)の販売が好調である。インドネシア自動車工業会によると、2014年1月に1万4,286台、2月に1万6,270台のLCGCが販売された。ただし、トヨタ自動車の「アバンザ」などの低価格帯の多目的車(LMPV)に比べると、LCGCはまだ半分以下の販売台数にとどまる。しかし、今後、都市での核家族化や中間層の拡大に伴って、LCGCの販売台数は増加していくものとみられる。

低価格を売り物にするLCGCは、必然的に、補助金の付いた低価格ガソリンを使う傾向が強い。すなわち、LCGCが普及すればするほど、低価格ガソリンの需要が増加し、燃料補助金を削減したい政府の方針と合致しなくなる。そこで、政府は今、LCGCに補助金付きガソリンを使わせない方策を検討中である。

エネルギー・鉱物省は、LCGCの補助金付きガソリン使用禁止を徹底させるべきだと主張するが、その具体的な方法については法的に規制する以上の具体策を示していない。国営石油会社(プルタミナ)は、ガソリンスタンドにPOSシステムを導入し、自動車のナンバーや購入者の特定ができる仕組みを試行しているが、そのデータを活用してどのように補助金付きガソリンを使った購入者に対して罰則を課すのか明らかでない。

現段階では、「ガソリンスタンドの注油ノズルの口径を変えて、LCGCに補助金付きガソリンが給油できないようにする」というハティブ財務大臣の提案が有力視されている。4月17日、ヒダヤット産業大臣も同案に同調し、プルタミナと協議する意向を示した。

これらを見る限り、政府はLCGCを普及させたいのか、させたくないのか、はっきりしない。ちぐはぐな印象を持たざるを得ない。ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)知事の言うような、「渋滞を激化させるLCGCの普及よりも公共交通機関の整備を優先すべき」という姿勢も、政府からは見えてこない。

自動車産業を今後の工業化の柱にしたいならば、政府は「LCGCをどうしたいのか」をまず明確にする必要がある。

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