【インドネシア政経ウォッチ】第30回 軍人が警察署を襲撃(2013年 3月 14日)

3月7日、南スマトラ州オガン・コメリン・ウル県で、陸軍砲兵部隊に所属する75人の軍人が同県の警察本署を襲い、建物を焼失させた。軍人らは、さらに他の警察署も次々に襲撃していった。今回の軍人による警察への攻撃は、1月27日に砲兵部隊の軍人が交通警察に射殺されたことへの報復とされている。

軍人らは警察本署周辺の道路をあらかじめ封鎖し、車両の通行を止めてから襲撃を開始。事前に知らされていたためか、周辺にある学校は休校し、商店も早々と閉店していた。この襲撃によって、警察本暑に拘置されていた30人が逃走した。3月8日、国軍第2軍区シリワンギ師団のヌグロホ司令官は警察に対して謝罪し、「組織としての国軍と警察の間には何も対立はない」と強調した。

1998年5月のスハルト政権崩壊後、それまで国軍の一部だった警察は軍から切り離され、軍は国防、警察は治安を担うことになった。テロ対策やデモ対応も、今や警察の仕事である。独立か否かで揺れたアチェでも和平が実現し、かつてのような、国内紛争地域で業績を上げた軍人が出世する時代は終わった。地方軍区の数を増やしたり、国境警備の予算を手厚くしたりするのは、軍人の雇用機会確保という意味もある。爆弾テロ事件を契機に、ホテルやショッピングモールの警備員の数も増えた。軍人であることがもはやステータス・シンボルではなくなったのである。今回の軍による警察への襲撃事件の背景には、こうした軍人の将来への不安があったのではないかと想像する。

だが、実際は、もっと些細で感情的な話に過ぎないのかもしれない。以前、南スラウェシ州マカッサルにいた頃、陸軍戦略予備軍(Kostrad)の兵士と警察官が女性をめぐってトラブルになり、両者が自分の仲間を引き連れてきて一触即発の事態となったことがある。おそらく、これまでにも軍人と警察官の些細な喧嘩が、種族や宗教などのニュアンスを伴い、住民を巻き込んだ暴動へ発展したケースが少なからずあったに違いない。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第29回 資金まみれのパプア州で州知事選挙(2013年 3月 7日)

パプア州選挙委員会は2月13日、先に行われた州知事選挙の結果、民主党推薦のルーカス・エネンベ(前プンチャック・ジャヤ県知事)=クレメン・ティナル(前ミミカ県知事)組が119万9657票(得票率52%)を獲得して当選、と発表した。

この州知事選挙自体、前職のバルナバス・スエブ州知事が過去に2回州知事を務めたことを理由に選挙委員会から立候補を取り消されるなど、紆余(うよ)曲折を経て、何度か延期された後で実施された。候補者の多くが現職県知事であるなか、人口の多い中央高地を抑え、資金力に勝るルーカス候補が最有力視されていた。

パプア州の開発政策では、点在する村々へ一定額の資金を配分する形態が採られる。とくに中央高地の村々へのアクセス手段が限られているため、バラまき型にせざるを得ない面もある。各村には州からの10億ルピアに加えて、県からさらに10億~30億ルピアの資金が投下される。これらの資金は、町中の銀行にある各村の銀行口座へ振り込まれ、村から定期的に町へ降りてきて資金を引き出す、という形を採る。

特別自治を行うパプア州は、中央政府から通常の地方交付金に加えて、特別自治交付金を受け取る。県や村が分立して数が増えたため、その額は毎年増加している。その意味でパプアは決して貧しくない。村レベルへ配分される資金も、村人にとっては見当もつかないような額である。果たしてこれらの資金はどのように使われているのか。いや、そもそも、こうした資金の存在を村人は知っているのだろうか。

州知事選挙の結果発表後、2月21日にパプア州内2カ所で、民間武装勢力が軍施設を急襲し、8人の軍人と4人の民間人が死亡した。当選したルーカス候補のお膝元プンチャック・ジャヤ県で起きたため、選挙結果への不満が原因との見方もある。パプアではこうした暴力事件が後を絶たないが、「パプア独立」といったイデオロギーよりも、むしろ、どろどろしたカネの話が背景に絡んでいる可能性が高い。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第28回 民主党は「ユドヨノの党」で終わるのか(2013年 2月 28日)

ハンバラン総合運動公園事業をめぐる汚職疑惑は、アンディ・マラランゲン青年スポーツ大臣辞任後の第2幕に入った。2月22日、ユドヨノ大統領を支える与党民主党のアナス・ウルバニングラム党首が汚職容疑者に断定され、翌23日に党首を辞任した。同事業を落札した企業から謝礼を受け取った収賄容疑だが、汚職で禁固5年のナザルディン元民主党会計役による証言などで、アナスの関与は以前から取り沙汰されていた。

おそらく、ユドヨノ大統領も民主党もアナスが容疑者になることを事前に知っていたに違いない。2月3日発表の最新の世論調査で民主党の支持率は8.3%に落ち込み、ゴルカル党(21.3%)や闘争民主党(18.2%)に大きく水を開けられた。2014年の総選挙を控え、何としてでも、党勢回復を図らなければならない。とりわけ、党の汚職イメージの払拭が必須である。しかし汚職疑惑に対するアナスの潔白を証明するのは難しい。党内から公然とアナスの党首職辞任を求める声が高まる。そこで、党創立者でもあるユドヨノ大統領は自身が最高会議議長として前面に出ることを決断。息子のイバスも国会議員を辞めて党書記長職に専念させ、ユドヨノ色で民主党の立て直しを図ることとした。

ユドヨノはこうしてアナスを「切る」準備を整えた。そのうえで、ユドヨノ自身がアナスに「汚職撲滅委員会との法的問題へ集中するように」と指示し、柔らかに辞任を促した。自分が復活するまでの緊急措置と信じていたアナスは、党首辞任演説で「これは最初のページに過ぎない。次々にページをめくっていく」と反抗を示唆した。

次の民主党を担う逸材として期待され、有望な大統領候補と目されたアナスは脱落し、民主党はユドヨノの陣頭指揮に委ねられた。それは、民主党が設立後10年を経ても「ユドヨノの党」を超えられなかったことを意味する。政党組織として成熟できず、汚職イメージの剥がれない民主党は、2014年のユドヨノ引退とともに終わるのだろうか。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第27回 モノレールをめぐる駆け引き(2013年 2月 21日)

洪水と渋滞ですっかり有名になったジャカルタでは、地下鉄やモノレールなど、公共交通機関の建設を通じた抜本的な対策が一層必要性を増している。費用が高いと問題になったものの、ジョコウィ州知事から一応ゴーサインの出た地下鉄に引き続き、先週はモノレール建設にも青信号が灯された。

ジャカルタのモノレール構想は、そのずさんな資金調達計画からいったんは頓挫。数本の細い鉄筋がむき出しになったモノレールの支柱の跡が痛々しかった。運営会社のジャカルタ・モノレール社は今も存続しているが、このほど同社の9割の株式をオルトゥス・ホールディングという企業が買収、と報道された。

オルトゥス・ホールディングを所有するのは、実業家のエドワード・スルヤジャヤである。彼は、トヨタなどの合弁相手であるアストラ・インターナショナルの創始者ウィリアム・スルヤジャヤの長男で、1990年代に破綻したスンマ銀行のオーナーであった。

これにより、ジャカルタのモノレール事業はオルトゥス・ホールディングの手に任されそうだが、ユスフ・カラ前副大統領を総帥とするハジ・カラ・グループがこれに異を唱えている。ハジ・カラ・グループは、バンドン、スラバヤ、マカッサル、パレンバンなどの地方都市でモノレール建設を推進中であり、ジャカルタでのモノレール建設にも関わってきた。ジャカルタ・モノレール社はなぜ、今ここでオルトゥス・ホールディングへ乗り換えたのか。ジャカルタ・モノレール社のスクマワティ社長は同じ南スラウェシ州出身のユスフ・カラ氏とは親しい間柄だけに、謎は深まる。

モノレールの車体は、多くの乗客を乗せられる日本製、価格の安い中国製に加えて、2月11日にブカシで公開されたインドネシア製も候補である。ハジ・カラ・グループの絡むパレンバンでは中国製の導入が検討されているが、ジャカルタではどうか。この辺りの話がオルトゥス・ホールディングの進出と関係している可能性もある。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第26回 顕著となる石油ガス部門の貿易赤字(2013年 2月 14日)

2月1日に発表された貿易統計速報によると、インドネシアの2012年の輸出総額は前年比6.6%減の1,900億4,460万米ドル、輸入総額は8.0%増の1,916億7,090万米ドルとなり、貿易収支は16億2,630万米ドルの赤字となった。この貿易赤字については、投資ブームで中間財・資本財の輸入が大きく増加する一方、世界経済の低迷で先進国市場への輸出が伸び悩んだことが原因、と説明される。しかし、貿易赤字を詳しく見ると、石油ガス部門での55億9,220万米ドルの赤字を、非石油ガス部門での39億6,590万米ドルの黒字で補うという構造になっている。貿易赤字で深刻なのは、実は石油ガス部門なのである。

石油ガス部門の貿易赤字を詳しく見ると、原油は14億9,020万米ドルの黒字、石油製品が245億2,130万米ドルの赤字、液化天然ガス(LNG)が174億3,890万米ドルの黒字であり、ガソリンなどの石油精製品の赤字を原油・LNGの黒字で補っている。石油製品の赤字は10年が141億600万米ドル、11年が232億2,120万米ドルで、国際石油価格の変動はあるにせよ、11年頃から大幅に輸入量が増加した可能性がある。インドネシア国内での二輪車及び自動車生産・販売台数の増加とそれに伴うガソリン需要増がある。

インドネシアは石油の純輸入国となり、石油輸出国機構(OPEC)からも脱退。原油からLNGへという動きが加速している。しかし、安泰と思われたLNGでも、インドネシアは輸入を増加させ、12年の輸入額は前年比118.2%増の30億8,160万米ドルとなった。経済成長につれてLNGの国内需要が高まる一方、国内でのガス田開発には時間がかかる。インドネシアは日本などとLNG輸出に関する長期契約を結んできたが、11年の契約更新時にその量を大幅に削減した。かつて日本向けLNG輸出基地だったアチェ州アルンのプラントをLNG輸入基地へ転換する計画もある。すでに国内では、LNG供給不足により、発電所や工場などの現場で生産活動に支障が生じている。

石油ガス部門の貿易赤字は、新規の石油・ガス田開発が進まなければ、ますます顕著となろう。成長するインドネシア経済のボトルネックである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第25回 「純潔」を守れなかったイスラム政党(2013年 2月 7日)

1月31日、福祉正義党(PKS)のルトゥフィ・ハサン・イサック党首が汚職撲滅委員会(KPK)に逮捕された。牛肉輸入枠の設定に関連して、国会議員である同党首が便宜を図り、特定業者が有利になるよう具申した見返りに金銭を受け取ろうとした収賄の疑いである。KPKは、輸入業者のインドグナ・ウタマ社の重役2名が同党首に近いアフマド・ファタナ氏に現金10億ルピア(約950万円)を手渡したことを突き止め、これがルトゥフィ党首へわたると見て収賄罪を適用したのである。

福祉正義党といえば、政党カラーは白で、汚職に対して最も厳しい「純潔」の政党として勢力を伸ばしてきた経緯がある。「イスラムの教えを正しく教え広める役割を担う政党」を標榜し、学生や若者を中心に支持層を広げてきた。汚職まみれの既存政治とは一線を画す「希望の星」として、国の将来を担う彼らの期待を集めてきたのである。

イスラムには、汚職の対極にある「清潔」のイメージがある。2000年代前半、「汚職をなくすには、イスラム法に基づく国家を目指すしかない」という気運が高まり、イスラム法適用運動が脚光を浴びた。地方レベルでイスラム法に基づく地方政令が連発され、イスラム政党は支持を伸ばした。その一躍を担っていたのが福祉正義党(あるいはその前身の正義党)であった。同時に、それは「インドネシアがイスラム国家になるのではないか」と欧米諸国が危惧(きぐ)した時期でもあった。04年のバリ島爆弾テロ事件はその最中に起こり、治安当局は、テロ対策の名の下に、イスラム強硬グループの摘発に躍起となった。

あれから約10年、イスラム法適用運動は下火となり、イスラム強硬グループは力を失い、イスラム政党は国民の支持を減らした。イスラム政党の国会議員も汚職に関与し、今や最後の砦(とりで)と見られた福祉正義党の党首が汚職で逮捕された。イスラムの「純潔」イメージはすでに政治の世界で守れず、イスラム政党がインドネシアで政治的に力を持つ可能性はなくなった。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第24回 洪水と企業移転論議(2013年 1月 31日)

首都ジャカルタで洪水が事業活動に及ぼす影響が議論されている。今月半ばに数年ぶりに大洪水が発生したためで、インドネシア経営者協会(Apindo)のソフィヤン・ワナンディ会長は、洪水を不可避と指摘。最低賃金や電気・ガス料金の上昇で、首都圏の事業コストが既に高いことにも懸念を示した上で、「企業が安心して事業に専念できる環境を得るには、東ジャワや中ジャワなどジャワ島の他地域への移転を政府が促すべきだ」と主張する。同会長の頭にはおそらく、労働争議が激しくなっていることも入っているのだろう。

実は今回の大洪水の前から、労働集約型産業では既に首都圏から最低賃金の低い他の地域へ生産を移管する動きが出ていた。西ジャワ州スカブミ県、中ジャワ州クンダル県、ボヨラリ県などが移転先として名乗りを上げている。特にボヨラリ県では韓国政府の支援を受け、韓国系の繊維企業が工業団地を造成する計画が進んでいる。東ジャワ州も企業移転を積極的に呼び掛け始めた。

ただ政府は、ジャカルタ周辺での事業活動に楽観的な見方を示している。投資調整庁のカティブ・バスリ長官は「今回の洪水は首都中心部でひどかったが、工業団地での生産活動に直接影響しなかった」と述べ、首都圏への投資家の評価は下がらないとの見方を示した。ヒダヤット産業相は、工業団地または産業都市を全国レベルで整備する必要は認めつつ、まだ他地域への企業移転を優先政策としない方針を示した。

確かに工業団地自体は、ジャカルタ東部のプロガドゥン工業団地やバンタン州タンゲラン地区の一部を除いて物的被害は微小だった。これに対して首都圏以外の地域、特にジャワ島以外ではインフラ整備がまだまだ必要な状態だ。

今回の企業移転論議は、地方経済の活性化を進めたい政府にとっては契機となり得る。一方で企業の海外への生産移管こそが、投資を経済成長の原動力としたい政府にとって最大の懸念材料なのである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第23回 洪水のジャカルタ、遷都論議再び(2013年 1月 25日)

雨季のジャカルタは洪水の街となる。4~5年に一度は大規模な洪水が起こる。そう分かってはいても今月17日に首都を襲った大洪水はかつてない規模だった。

国家災害対策機関(BNPB)によると、1月20日時点で死者20人、避難者4万416人に上った。都心部にあるタムリン通り、スディルマン通りといった幹線道路が冠水して川のようになり、結果的に市内の至る所が冠水した。前日に「ジャカルタ全体が水に浸かる」というショート・メッセージ・サービス(SMS)が流れ、デマとして警察が捜査する矢先に、それが現実となってしまった。

洪水に加えて停電も深刻だった。ジャカルタ市内に電気を供給するムアラカラン発電所の一部が冠水して発電できなくなり、1,245カ所の変電所が停止。広範な地域で停電が長時間続き、一部のオフィスは閉鎖を余儀なくされた。

今回の洪水は基本的に予想を超える長時間の豪雨によるものではあるが、排水ポンプの機能不全、川沿いの堤防の決壊、ビルの浸水対策の不備、川などに廃棄された大量のゴミへの対策の遅れ、などさまざまな問題を浮き彫りにした。西ジャワ州ボゴールやプンチャク周辺での不動産開発による森林伐採・土壌保水力の低下が河川への流量を増やした可能性も高い。地下水汲み上げなどによるジャカルタ全体の地盤沈下も被害を拡大させた要因だ。

洪水対策のインフラとしてジョコ州知事は昨年末に、多目的な地下トンネルの構想を発表した。ジャカルタ東部から北部の全長10キロメートルを3段構造(上2段を自動車道路、下1段を電線・電話線・ガス管や浄水・下水管)とし、洪水時には自動車の通行を禁止して配水管として活用するというものだ。またユドヨノ大統領は20日に、チリウン川から東部放水路へ結ぶ2.1キロメートルの水路建設を決定した。

しかし、ジャカルタが災害への脆さを克服できるまでの道のりは遠い。大洪水を契機に、遷都の必要性がより真剣に議論されるのは確実である。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第22回 電気自動車の時代は来るのか(2013年 1月 17日)

インドネシアの自動車販売台数は、2012年に初めて100万台を突破した。日本メーカーの多くが内需だけでなく世界市場への生産拠点にも位置付けて拡張投資を進める中、自動車部品などを生産する下請企業の進出も相次いだ。輸出も昨年1~11月に25万台を超え、前年の19万台を大幅に上回るなど好調。名実ともに世界の自動車生産拠点の一角を占め始めた。

このような状況下で、政府は電気自動車の研究開発にも力を入れている。今月9日にはハッタ調整相(経済担当)を議長とする国家電気自動車開発調整会議を開催。教育文化省と科学技術国務大臣府の調整の下、専門家チームも発足させ、官民でそれぞれ複数の電気自動車のプロトタイプを試作している。今年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際には、会議で使用する車をすべて電気自動車にする計画も出された。

国営電力会社のPLNによると、ジャワ=バリの電力には30%の余剰があるほか、夜間の未使用電力100キロワットを有効活用できる。家庭電源とは別に10~20分で急速充電できる充電機を1台1,000万ルピア(約9万3,000円)で設置可能としている。

最も推進に熱心なのは、ダハラン国務相(国営企業担当)である。しかし、今月5日に中ジャワ州の高速道路で、自身の運転するフェラーリ製の赤い電気自動車で衝突事故を起こし、ナンバープレートの偽造、無許可での電気自動車の走行など警察は道路交通法違反の疑いで大臣を取り調べる事態となった。大統領候補のダークホースと目されていた同相にとって、致命的な事件となった。

電気自動車に関する話題に事欠かないが、今のところ日本メーカーの関心は低いようだ。政府も技術協力を求めずに自前での開発を試みている。果たして電気自動車の時代はいつ頃来るのか。日本メーカーもインドネシア政府の動きを注視していく必要があるだろう。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第21回 2013年は選挙の年(2013年 1月 10日)

インドネシアの各都市は、無数の花火の打ち上げとともに新年を迎えた。花火を見に来るだけでなく、自分で買って打ち上げる人も少なくない。人混みの中から打ち上げる様子に恐怖を覚えつつ、庶民が花火の打ち上げに参加する時代になったことに対し、爆竹や花火の使用が厳しく禁止されていたスハルト時代を思い出すと隔世の感がある。民主化されたインドネシアの一面を映す風景といえる。

インドネシアの民主化は、2004年の大統領直接選挙、および地方首長直接選挙の実施で制度上の目的をほぼ達成した。現在は政治家と名のつく人物はすべて国民による選挙の洗礼を受けている。スハルト時代のような大統領による任命議員は1人もいない。しかも全国33州、500以上の県・市で、任期5年の地方首長直接選挙が別々のスケジュールで、選挙運動などで死傷者を出さずに実施されることが当たり前の光景となっているところにも、インドネシア社会の成熟を感じる。

今年は15州で州知事選挙が行われる。今月22日投票の南スラウェシ州を皮切りに、パプア、西ジャワ、北スマトラ、東ヌサトゥンガラ、西ヌサトゥンガラ、バリ、中ジャワ、南スマトラ、東カリマンタン、北マルク、マルク、東ジャワ、リアウ、ランプンと続く。多数の県知事選挙・市長選挙も予定されている。

多くの政党は、一連の地方首長直接選挙を14年の総選挙・大統領直接選挙の前哨戦と位置付けている。現行法では政党を通じないと立候補できないため、政党が立候補者として地方の有力者を探す一方、地方の有力者も立候補に際してどの政党を使うかを算段するという状況が生じている。このため、大政党の立てた候補者が敗れ、マイナーな小政党に担がれた候補が当選することも頻繁に起こる。これらも念頭に置きつつ、今年1年のインドネシア政治の動きを見誤らないようにウオッチしていきたい。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第20回 地方分立モラトリアムはどこへ(2012年 12月 27日)

インドネシアの地方政府の数が増加している。州の数は現在33であるが、東カリマンタン州から北カリマンタン州が分立し、来年は34となる。北カリマンタン州は今年10月に国会で承認された。ブルンガン県、ヌヌカン県、マリナウ県、タナ・ティドゥン県、タラカン市を含み、タンジュン・セロールを州都とする。今年7月時点で、県は399、市は98である。

同時に西ジャワ州パンガンダラン県、西パプア州マノクワリ県、アルファク県、ランプン州西沿岸県の新設も認められた。今月13日には、東カリマンタン州上流のマハカム県、南スマトラ州下流のパヌカン・アバブ・レマタン県、東ヌサトゥンガラ州マラカ県、北マルク州タリアブ島県、西スラウェシ州中マムジュ県、中スラウェシ州海洋バンガイ県、東南スラウェシ州東コラカ県の設置も承認された。

地方分立が相次ぐ中、中スラウェシ州モロワリ県では、北モロワリ県の設置が認められなかったことを不服とする住民が暴動を起こした。分立を公約として当選した県知事が国会に出席しなかったことも火に油を注いだ。もともとモロワリ県自体がポソ県から分立した県だが、県都を北部のコロノダレに置くか、南部のブンクに置くかで抗争があり、敗れた北部が北モロワリ県の分立を主張してきた。

だが南部がなぜ今、北モロワリ県の分立を支持するのか。答は天然資源である。モロワリ県南部沖で近年、ガス田が見つかっており、南部で権益を独占するためである。天然資源の産出県には、いったん国庫に入った天然資源収入が傾斜的に再配分されるほか、地方税などの自己財源収入も期待できる。それを北部に分けたくない。モロワリ県以外でも、「天然資源」をキーワードにして地方分立が説明できるケースは少なくない。

ユドヨノ政権は、地方分立を当面停止するモラトリアムを宣言したままのはずだが、ここに来て急に認め出した。当然のことだが、2014年総選挙・大統領選挙を念頭に置いた「方針転換」である。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第19回 ハビビ元大統領への侮辱(2012年 12月 20日)

12月20日から上映の「ハビビとアイヌン」という映画が評判だ。ハビビ元大統領と故アイヌン夫人との夫婦愛を描いた同名の本を映画化したものである。

ハビビ氏はスハルト政権下で科学技術担当国務相を何度か務め、1998年3月に副大統領、98年5月にスハルト大統領辞任に伴い大統領に就任した。スハルトの側近とされ、大統領就任後はインドネシアの民主化改革を実行した政治家として知られている。

そのハビビ氏を批判するコラムが今月10日、隣国マレーシアの有力紙『ウトゥサン・マレーシア』に掲載された。執筆したのは、ジャーナリストのザイヌッディン・マイディン元マレーシア情報相である。彼は「ハビビ氏が大統領になった後に東ティモールを独立させたのはインドネシア国民に対する侮辱である」「ハビビ氏が大統領になる前にマレーシアの会議で当時のマハティール首相らを2時間以上待たせたのはエゴ以外の何物でもない」などと述べ、マレーシアの反体制派指導者アンワル・イブラヒム元副首相と並べて「帝国主義の犬」と評した。

これに対してインドネシアの政治家は、同コラムがハビビ氏への侮辱であると同時に、インドネシアへの侮辱であると非難した。マレーシアが常にインドネシアを「上から目線」で差別的に見ていることの表れと位置づけ、ザイヌッディン氏に謝罪を求めた。二国間関係に影響を及ぼすことを懸念したマレーシア政府も、ザイヌッディン氏にインドネシア側への謝罪を求めたが、同氏は応じなかった。なお、ハビビ氏自身はコラムの件について特に反応を示していない。

ハビビ氏をめぐっては、大統領に就任後、なぜ側近だったはずのスハルト氏と距離を置いたのかなど疑問点はある。先週のテレビ番組のインタビューで、ザイヌッディン氏もそれに触れたが、インドネシア側コメンテーターはすぐに遮った。今は「ハビビとアイヌン」のイメージを壊さないことのほうが重要なのである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第18回 汚職疑惑で現職閣僚が初辞任(2012年 12月 13日)

汚職が激しいといわれるインドネシアで、ついに現職閣僚が汚職事件の容疑者にされ、辞任する事態となった。今月7日、アンディ・マラランゲン国務相(青年スポーツ担当)の辞任記者会見は、インドネシア人の多くに驚きをもって受け取られた。

青年スポーツ省管轄のハンバラン総合スポーツ施設事業で汚職疑惑が持ち上がり、当初からアンディ国務相の関与をうかがわせる情報が流れていた。汚職撲滅委員会(KPK)は彼を容疑者に断定し、国外逃亡を防ぐために出国禁止措置を採った。インドネシアの歴史上、閣僚が現職のまま汚職容疑者になったのも、汚職疑惑が原因で辞任するのも今回が初めてのことである。

政治家の汚職疑惑はもはや日常茶飯事といってもよいが、これまで辞任する者はいなかった。辞任すれば、汚職疑惑を認めたと見なされるからであろう。疑惑を無視し、じっと耐え、騒ぎが収まるころ、何事もなかったように地方首長選挙に立候補する。そういう者が少なくない。「何かあれば腹切り(辞任)する日本の政治家を見習え」という批判をよく聞いたものだ。アンディ氏は日本の政治家を見習ったかもしれないが、自分の身の潔白は強く主張した。

アンディ氏は南スラウェシが本拠のブギス族出身である。ブギス族は白黒はっきり、直球勝負という性格で知られる。今回の彼の辞任を「潔い」と前向きに評する者もいる。彼の汚職容疑を断定したアブラハム・サマッドKPK長官も、ブギス族出身の人権活動家である。両者はおそらく、若いころは同志のような関係だったに違いない。ただ、かつてのアンディ氏の「同志」でもある私の友人のひとりは、政治家になったアンディ氏が、若い頃と比べてすっかり変わってしまったことを嘆いていた。

アンディ氏は民主党幹部でもあり、大統領候補のひとりでもあったが、今回の件でその芽はなくなった。1998年のスハルト政権崩壊後、新しいインドネシアを作る意欲に燃えていたころの彼を知る身としては、寂しさを感じる残念な辞任劇であった。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第17回 国会議員対ダハラン国務相(2012年 12月 6日)

政党や国会議員が、省庁や国営企業に便宜を図った見返りを強要する疑惑がメディアを賑わせている。10月に国営ムルパティ航空が政府から増資を受けた際に、国会議員が関連法案を通した見返りとして礼金を要求したことが明らかになった。公表したのは、ムルパティを監督するダハラン・イスカン国営企業担当国務相。メディアから強く要求された結果、礼金を要求した国会議員10人のうち3人の実名を挙げる事態となった。

当然のことながら、名指しされた国会議員は身の潔白を主張した。その後、ダハランが一部について誤りを認めたため、国会議員は「名誉棄損で訴える」「大臣の罷免を要求する」と攻め立てる。ムルパティのルディ社長は、国会議員からの礼金要求は否定しなかったが、「自分は大臣に報告していない」とダハランをかばう姿勢を示した。

民主化後のインドネシアでは、省庁や企業による議会対策が極めて重要となった。議員たちに内容を理解してもらい、法律や政策を通してもらうためである。ゆえに、省庁や企業が「議会対策」の名の下で議員にさまざまな便宜を図るほか、逆に議員側が省庁や企業に要求をすることも一般化した。政党や議員にとっては大事な資金源となる。

11月14日、ディポ・アラム内閣官房長官は、国家予算絡みで3省庁が国会議員と不明朗な癒着関係にあると汚職撲滅委員会(KPK)に報告した。同長官によると、政府はすでに2005年からKPKに対して約1,600件の汚職疑惑の捜査許可を求めてきたが、そのほとんどが政党・国会議員に絡むものであるという。

国会で叩かれているダハランは次期大統領候補のひとりと目されている。一部の政治勢力の中には、今回の事件を通じてダハランにダメージを与え、大統領候補としての芽を摘みたいという思惑もあるようだ。ダハランはここでつぶされるのか。引き続き注目していきたい。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第16回 派遣労働から業務請負へ(2012年 11月 22日)

アウトソーシング(外部委託)に関する労働・移住相令が14日に発布、19日に施行された。当初に予定していた今月2日の発布が遅れたのは、「労使間の対立が解けないため」と報じられていたが、実際は手続論の問題だった。

すなわち、政府、経営者、労働組合の三者協議という基本ルールを守らずに、経営者抜きで話が進められていたからであり、実際に14日に三者協議が再開された後、大臣令が署名された。ただし、経営者側は派遣業務を5種に限定することに最後まで抵抗し、全面同意には至らなかった。

実は、アウトソーシングの解釈に新たな動きがあった。7日の外国人ジャーナリスト協会のパネルディスカッションで、労働・移住省の報道官は「これまで使ってきた5業種以外の派遣労働は業務請負に移行する」と発言した。業務請負は法人以外に認められておらず、また中核(コア)業務と非コア業務の区別や業務フローについては、従業員の同意と地元労働局の承認が必要で、結果的に悪質なアウトソーシング業者は排除される。派遣労働が一切禁止になるのではなく、業務請負へと形を変えて継続できる可能性が見えたといえる。

過激な争議への批判が高まっているためか、渦中の金属労連は「違法なアウトソーシングに反対」と主張し、アウトソーシング全体を否定しているのではないという姿勢を見せる。しかし合法の定義は示せず、法的には「例示」に過ぎない派遣労働の5種を「限定」へ変更させた力を誇示するだけの結果に終わった感がある。

派遣労働から業務請負への移行という方向性は、署名後の大臣発言でも踏襲された。労働組合側も業務請負自体には反対しない意向を示している。結果的に「派遣労働から業務請負へ」という流れが労使双方の落としどころとなったようである。

組合側は最低賃金の引き上げに要求の重心を移し、今日22日、5万人規模のストを実行する計画だ。組合側が力を誇示するネタはまだまだ尽きない。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第15回 外部委託規制、標的は悪質業者(2012年 11月 8日)

11月2日といわれていたアウトソーシング(外部委託)に関する新たな労働・移住大臣令の発布は、同月半ばに延期された。焦点は、派遣労働を清掃、警備、配膳、運転手、石油ガスの5種に限定することにある。

労働法(法律2003年第13号)第66条では、5種は単に例として挙げられたにすぎないため、インドネシア経営者協会(APINDO)は限定を不当として憲法裁判所に訴える構えをみせている。しかし、労働・移住省は、同法第65条に「大臣権限で条件などの変更可」とあるため不当ではないと反論する。

金属労連(FSPMI)などの労働組合は、派遣労働者の正規労働者化を求めて横暴なデモや示威行為を繰り返しているが、労働者を派遣するアウトソーシング業者のことは、あまりメディアで取り上げられていない。アウトソーシング企業協会(ABADI)の加盟企業は約200社だが、実際には1万社以上が当該業務に携わっているといわれる。村長や地方政府が簡単に設立許可を発出したためで、労働・移住省も十分な監視が行えていない。ペーパーカンパニーまがいの業者も多いほか、同省関係者や警察などが絡んでいるケースもあるそうだ。

業者を通じれば、求職者は派遣労働者として登録することで職探しのコストを低減できる。厳しい競争にさらされる経営側も状況に応じて従業員数を柔軟に調整できる。その意味で、アウトソーシング制度は労働市場の需給調整を円滑にする面がある。ABADIの試算によると、アウトソーシングを5種に限定すると、新たに1万以上の失業者が発生する。

労働組合のアウトソーシング批判は、労働者をモノのように扱い、業者が彼らの賃金から不当にピンハネする点に向けられる。APINDOも悪質な業者を批判している。そうであれば、組合側と経営側は相互の対立をエスカレートさせるのではなく、むしろ一緒に悪質な業者の摘発と監視をすべきではないかと思うのだが。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第14回 HasmiとHASMI(2012年 11月 1日)

国家警察テロ対策部隊(Densus 88)は10月26日から27日にかけて、ジャカルタ、西ジャワ州ボゴール、東ジャワ州マディウン、中ジャワ州ソロの4都市でテロ容疑者11人を逮捕した。米国大使館、オーストラリア大使館前のプラザ89ビル、中ジャワ州スマランの警察機動隊本部前、東ジャワ州スラバヤの米国総領事館などを標的としたテロを計画していたとの容疑からだ。同時に、爆弾製造の材料や爆発物なども押収した。

警察によると、彼らはハスミ(Hasmi)と呼ばれる新たなテロリスト・グループのメンバーで、中スラウェシ州ポソでの警察官殺害や爆弾事件にもかかわっている。逮捕されたアブ・ハニファ(26歳)はリーダーで、ポソでテロリスト訓練を受けたといわれている。ポソからソロへ戻った後、近隣住民に弓矢や剣のほか、火器の使い方も教えていた。中ジャワやジョクジャカルタ特別州の急進イスラーム組織ラスカル・ヒスバとの強い関係を指摘する評論家もいる。

ところが、すぐに同名の組織がテロリストとの関係を否定し、警察に抗議する声明が出された。この声明を出したハスミ(HASMI)は、Harakah Suniyyah untuk Masyarakat Islamiという組織で前述のHasmiとは別組織。「逮捕された11人は会員ではない」「暴力を否定する」と訴えた。HASMIは、初期イスラーム(サラフ)への回帰を掲げるサラフィー主義の団体で、2004年に社会団体として政府に正式登録されている。厳格なイスラームを希求するが、政治には消極的・保守的とみられている。

警察は結局、HASMIがHasmiと別組織であることを認めるとともに、Hasmiのような新グループが容易に形成される可能性にも言及した。アブ・ハニファはジュマア・イスラミアの信奉者とされるが、Hasmiのメンバーとポソ・グループとは直接の関係はないという見方もある。彼らのネットワークのより詳細な解明が待たれる。

一方で暴力を否定するといっても、HASMIは急進イスラーム組織と思想的に共通する部分があるため、警察が大きな関心を持っていることは想像に難くない。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第13回 MRTと首都交通システム(2012年 10月 25日)

今月15日にジャカルタ特別州の知事就任式を終えたジョコウィ新知事は、「大量高速公共交通システム(MRT)事業に関するプレゼンテーションを早急に求める」と述べた。交通問題の専門家から構成されるインドネシア交通コミュニティ(MTI)がMRTの事業コストの高さを疑問視しているため、より安いコストで建設可能かを再検討するのが狙いだ。再検討作業に時間がかかれば、建設計画に遅れが生じる可能性が出てくる。

一部のマスコミは、事業の遅延だけでなく「白紙化の可能性もある」と報じた。知事が代替輸送手段にも言及したためである。知事は翌日、白紙化の可能性を否定して事業継続を明言した。ただ1キロメートル当たりの建設コストが、生活水準の高いシンガポールよりもはるかに高いことを引き合いに、事業コストに対する説明を求める姿勢をあらためて表明した。

MRT事業とは別に、資金難で一度は頓挫したモノレールの敷設計画が、国営アディカルヤ主導のコンソーシアムで動き始めた。もともとMRTとモノレールは、どちらかをジャカルタに適用するという話だったが、現在では両方とも必要との認識に至っている。今月19日にはアホック副知事から、「MRTとモノレールの運営を一体化してはどうか」との提案も出た。

知事は、MRT、モノレール、バスウエーなどすべての公共交通手段を有機的に統合する方法を考えている。早速、老朽化したバス車両を更新し、中型バスを冷房付きの大型のバスに代えていく構想を示した。

インドネシアでは「まずやってみて問題があれば後で考える」のが一般的である。渋滞解消待ったなしのジャカルタでは、将来を見据えた交通システムの体系化は今さら難しく、やはり「走りながら考える」ことになる。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第12回 汚職捜査官の殺人容疑(2012年 10月 18日)

今月5日、警察官5人が反汚職委員会(KPK)の事務所へ押しかけ、立ち入り調査を求めた。警察の運転シミュレーターに関する汚職疑惑を捜査する警察出身のノベル・バスウェダン捜査官に対し、ブンクル州警が殺人容疑をかけているためである。

ブンクル州警によると、8年前の2004年に同州で警察官を務めていたノベルは、ツバメの巣を盗んだ疑いで男性6人を取り調べた際に自白を強要した。取り調べに行き過ぎがあったとの理由で、他の警察官5人とともに倫理規定違反で7日間の拘禁などの処罰を受けた。

処分はこれで終了したはずだったが、今月1日になって海岸での現場検証の際に、容疑者の1人がノベルに銃で撃たれて死亡したという話が出てきた。犠牲者の遺族が弁護士を通じて証言したのを受け、ブンクル州警は殺人容疑でノベルの令状を出し、取り調べを開始したのである。

新たな証言は、警察の運転シミュレーターの汚職疑惑の捜査が進む時期に飛び出した。国家警察は「ブンクル州警の話で汚職疑惑とは関係ない」と説明するが、偶然にしてはタイミングが良すぎる。これまでにも暴動などが起こると、警察は凶器や証拠品をわざわざテレビで放映し、犯人を示唆するようなコメントを出すことがよくあった。その手際があまりにも良すぎて、逆に警察のシナリオが丸見えになるのではないかと思ったものだ。

警官がKPKの事務所に押しかけた直後の週末は、全国各地で「KPKを守れ」「大統領は沈黙なのか」などのプラカードを掲げた市民デモが発生し、「警察がKPKの汚職捜査を妨害しようとしている」と非難の声が上がった。

ユドヨノ大統領はこれを受けて8日、KPKを擁護する演説を実施し、ノベルへの取り調べ時期とやり方は不適当と指摘した。ただ同氏に対する殺人容疑が晴れたわけではなく、ブンクル州警による取り調べは続行される。汚職捜査をめぐるKPKと警察との駆け引きはまだ続きそうである。

 

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【インドネシア政経ウォッチ】第11回 魅力的な投資先、東ジャワ(2012年 10月 11日)

日系製造業の多くは現在、ジャカルタ首都圏で操業しているが、用地取得や労働争議などでマイナス面が出始めている。そこで投資先として注目を浴び始めているのが東ジャワ州である。

同州の人口は3,750万人で、2012年上半期(1~6月)の経済成長率は全国平均の6.5%を大きく上回る7.2%を記録した。限界資本生産比率(ICOR)はジャカルタの4.6に対して東ジャワは3.1と低く、投資が経済成長を促す効率はジャカルタよりも高い。州投資局によると、書類がすべて整えば投資認可の必要日数は最長17日。電気などエネルギー供給も現時点では余っている。

既存の工業団地は急速に埋まりつつあるが、ジャカルタに比べればまだ空きがある。州政府は全県・市に「工業団地を急いで造成せよ」と号令をかけ、モジョクルト、ジョンバン、バニュワンギなどで用地買収が進む。価格も現時点では1平方メートル当たり70万~80万ルピア(約5,700~6,500円)と低水準だ。日系企業が多く入居するパスルアン工業団地から州都スラバヤまでの所要時間は1時間強だが、数年後には高速道路でスラバヤ港や空港と直結する。ジョンバンでは韓国企業専用の大規模な工業団地の開発が計画されている。

州知事は、全国に先駆けてアウトソーシング(外部委託)あっせん会社の新たな事業許可を凍結、争議の際には労働組合の代表と直接話し合う姿勢を貫く。実際に10月3日に行われたゼネストでは、多くの工業団地で午前中に終了したもようで、破壊活動もなかった。ジャカルタ周辺では、マネージャークラス以外に一般労働者クラスの採用も難しくなり始めたが、東ジャワではまだ余裕がある。

大阪府と姉妹関係にあるため、日本からの企業視察団が頻繁に来訪する。スラバヤはスラウェシ以東、インドネシア東部地域との交易の中心であり、スラバヤ港は日本と直結する。対日感情も良好である。ジャカルタ以外の投資先として、東ジャワを検討する価値はありそうだ。

 

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