東京でインドネシア新内閣について講演(Nov 3, 2019)
2019年11月3日、東京で開催された、ニューズピックスのアジア専門家である川端隆史氏主宰のイベントにて講演しました。内容は、2期目を迎えたインドネシア・ジョコウィ政権の新内閣の陣容に関する分析、今後のインドネシアの政治経済の展望など。参加者からたくさんの質問を受け、議論が盛り上がりました。
内容の一部は、2019年11月7日付の『じゃかるた新聞』にも掲載されました。よろしければ、以下のサイト(有料)もご参照ください。
2019年11月3日、東京で開催された、ニューズピックスのアジア専門家である川端隆史氏主宰のイベントにて講演しました。内容は、2期目を迎えたインドネシア・ジョコウィ政権の新内閣の陣容に関する分析、今後のインドネシアの政治経済の展望など。参加者からたくさんの質問を受け、議論が盛り上がりました。
内容の一部は、2019年11月7日付の『じゃかるた新聞』にも掲載されました。よろしければ、以下のサイト(有料)もご参照ください。
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の周辺では、 再び内閣改造の噂が流れている。更迭がささやかれる大臣は何人もいるが、可能性が最も高いのがマルワン村落・途上地域開発・移住相である。
村落・途上地域開発・移住相のポストは、これまで民族覚醒党の政治家が座り続けており、同党の既得権 益と化してきた。大統領周辺によると、同省の年予算消化率が約25%と他省に比べて著しく悪く、現政権が力を入れる村落開発に関して期待通りの成果を上げていない。
一方で、事業の入札にあたっては20~30%分をリベートとして上積みすることが求められているとされ、大臣の弟を含む省外の近親者たちが省の事業を事実上、牛耳っていることに対して省内から強い批判が起こり、大統領宛てに大臣罷免要求の嘆願書が出される事態となった。
更迭の噂が出ているのはこのほか、リザル・ラムリ調整相(海事)とスディルマン・サイド・エネルギー・ 鉱物資源相である。この2人は、マルク州にあるマセ ラ天然ガス田開発をめぐって陸上方式か海上方式かで激しい対立を起こした。大統領はバランスをとって両者を更迭させたい意向のようだが難しい。リザル調整相の背後にはルフット・パンジャイタン調整相(政治・ 治安)が、スディルマン・エネ鉱相の後ろにはユスフ・ カラ副大統領がいる。
ジョナン運輸相にも更迭の噂がある。ジャカルタ~バンドン間の高速鉄道での中国案の採用に消極的だっただけでなく、1月の高速鉄道着工式に欠席したことから大統領の批判を受けているようだ。
こうした動きを見ると、ジョコウィ大統領に対する ルフット調整相やリニ国営企業相の立場が以前より強まってきたと言える。他方、両者と敵対する与党第1党の闘争民主党は影響力を低下させており、同党のメガワティ党首にはむしろ焦りの気配すらうかがえる。
内閣改造をちらつかせながら野党を取り込み、徐々に政権基盤を安定化させるジョコウィ大統領。なかなかしたたかである。
(2016年4月14日執筆)
このところ、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権内部での閣内不一致が表面化している。とくに、リザル調整相(海事)とスディルマン・エネルギー・鉱物資源相との対立はその典型である。
両大臣は、マルク州南部のマセラ鉱区でのガス田開発をめぐって対立する。日本の国際石油開発帝石(INPEX)が主導する同鉱区のガス田開発は、深海からのガス抽出という技術的理由により、前政権下で海上にプラントを浮かべる洋上方式が提案され、了承された。
その後、開発側から生産量拡大に伴う修正案が出されると、現政権下で議論が紛糾し始めた。リザル調整相が陸上方式を強力に主張したのである。リザル氏側もスディルマン氏側も事前調査を行い、互いに自案の優位性を主張した。このため、政府は第三者機関に依頼して再調査を行い、洋上方式が優位であるとの結論が出された。
しかし、ジョコウィ大統領はそこで決断できなかった。修正案を新たな利権獲得機会と捉えた人々が動き出していた。マルク州内では、「洋上方式なら利益を全部外資に取られ、地元に何の恩恵もない」という話が住民レベルに広まっていた。陸上設備の設置場所をめぐる県政府間の激しい対立や値上がり期待の土地の買い占めも起こり、政治対立や住民間抗争などの恐れが出てきた。
リザル氏は、「スディルマン・エネ鉱相は海事担当調整相の管轄下にある」として自案を譲らず、閣議ではスディルマン氏と罵り合う場面すらあった。スディルマン氏は、今回の対立の裏で事業への新規参入を狙う企業の存在さえ示唆した。結局、ジョコウィ大統領はさらなる調査を要請して決定を先送りし、事業開始が予定よりも遅れる可能性が高くなった。
もっとも、こうした閣内不一致や大統領の指導力の欠如が露呈しても、現政権が不安定化する様子はうかがえない。これまでに野党勢力は切り崩されて弱体化し、現大統領に対抗する政治家もまだ現れていないためである。現政権の奇妙な安定はしばらく続くと見られる。
(2016年3月11日執筆)
政府は2月11 日、東南アジア諸国連合(ASEAN)・米国会議に出席するジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の訪米を前に、経済政策パッケージ第10 弾として投資ネガティブリスト(DNI)の概要を公表した。DNIは2年に1度改訂されるが、今回の改訂の目玉は、外資出資比率の大幅緩和である。
とりわけ、これまで国内資本のみとされてきた業種を含む35 業種で100%外資が認められたことは驚きである。対象となった従来の外資参入禁止業種には映画撮影・制作・配給および関連設備、一般・歯科・伝統医療行為、年金運用などがあり、これまで地場中小企業向けだったワルテル(貸し電話・インターネット屋)でも外資100%が認められた。
それら以外では、冷蔵保管倉庫(従来は33%)、レストラン・カフェ・バー(同49%)、スポーツ施設(同 49%)、映画撮影・吹替・複製(同49%)、クラムラバー製造(同49%)、病院経営コンサルティング・クリニックサービス(同67%)、薬品原材料生産(同85%)、危険物以外のゴミ処理(同95%)、高速道路運営(同 95%)などでも100%外資が認められた。
また、外資出資比率が67%に引き上げられたのは、 冷蔵保管倉庫以外の倉庫業(従来は33%)、旅行代理店・教育訓練(同49%)、私立博物館・ケータリング(同51%)、建設業ほか19業種(同55%)などである。
ただし、地場中小企業を保護するため、外資の最低出資額は100 億ルピア(約8,500 万円)以上とされた。 電子商取引(EC)では1,000 億ルピア以上ならば外資100%が認められるが、それ未満は67%までとされ た。
今回のDNIは、大統領の訪米直前という、関係省庁の反発を抑える絶妙のタイミングで発表されたが、 すでに国内業界団体からは外資支配を警戒する声が上がっている。投資調整庁はこれまで、外資の最低払込資本額などを内規でたびたび変更しており、後出しで様々な条件を加えて再規制する可能性も否定できない。 国内のナショナリズム感情の動きを踏まえ、外資規制緩和に対する政府の本気度が試されることになる。
(2016年2月25日執筆)
スティヤ・ノバント国会議長が石油商リザ・ハリッド氏とともに米系鉱山会社フリーポートの株式を要求したとされる2015 年6月8日の面会は、同席した同社のマルフ・シャムスディン社長によって会話がすべて録音されていた。当初、その一部のみ公開されたが、その後、全会話の内容がリークされた。その内容は、フリーポート関連に留まらない衝撃的なものだった。
たとえば、大統領選挙において、当初、リザ氏は親友のハッタ・ラジャサ前調整相(経済担当)を副大統領候補としてジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領候補と組ませようとしていたが、ジョコウィ氏が所属する闘争民主党のメガワティ党首から拒否されたこと。大統領選挙では、ジョコウィ=カラ、プラボウォ=ハッタの両陣営に多額の資金を提供したこと。新国家警察長官にブディ・グナワン氏を就けることで政界を説得してきたのに、ジョコウィ大統領が拒否し、メガワティ党首がジョコウィ大統領に対して激怒したこと。
これらは、国営石油プルタミナのシンガポールの貿易子会社プルタミナ・エナジー・トレーディング(ペトラル)を牛耳ったリザ氏が、政商として、いかにインドネシア政界で暗躍していたかを物語るものである。
リザ氏が暗躍できるのは、石油貿易にかかる利権を握っていたためである。その一部は、インドネシア政界に広く配分されてきた可能性がある。今回、リザ氏がフリーポート口利き事件に絡んでいるのも、彼が牛耳ったペトラル解散の話と関連づけて見る必要がある。
国会顧問委員会によるノバント議長の喚問は非公開となった。政界は、フリーポート口利き事件を特定個人の問題として、幕引きしたいようである。実際、同議長辞任要求デモも起こっている。そうでなければ、リザ氏の暗躍に見られるような、政界全体における石油利権の話に飛び火するからである。
この事態をほくそ笑んで静観するのは、リザ氏の宿敵である。ペトラルを解散させ、新たな石油利権を手中にしつつある者たちである。
(2015年12月8日執筆)
パプア州にある米系鉱山会社フリーポート社は、世界有数の金鉱や銅鉱を産出する優良企業である。1960年代半ばにスカルノからスハルトへ政権が移行し、経済運営が資本主義へ変化した後の外国投資認可第1号が同社だった。
フリーポート社の契約は2021 年に切れるが、その2年前の19 年までに契約延長か否かが決定される必要があり、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権は現状では延長しない方針である。同社はもちろん契約延長を望んでおり、仮に同社が21年以降国営化されるような事態にでもなれば、インドネシアへの外国投資に甚大な負の影響を与えることになる。
スティヤ・ノバント国会議長による口利き事件には、こうした背景があった。同議長は15年6月8日、フリーポート社の社長らと会い、フリーポート社契約延長へのロビーの見返りに、同社がパプア州パニアイ県に建設するウルムカ水力発電所の49%の株式を同議長に渡すことを求めた。さらに、ルフット調整相(政治・治安)名で、正副大統領に20%の株式を提供することを求めた。
事態を重く見たスディルマン・エネルギー・鉱物資源相は、上記の事実を大統領へ報告し、国会顧問委員会宛にノバント議長を告発した。同議長には、正副大統領への名誉毀損、フリーポート社への詐欺、汚職の嫌疑がある。
ノバント国会議長は、ハチミツ売りから建設、ホテル、繊維などの実業家へのし上がったゴルカル党幹部で、アブリザル・バクリ党首の側近である。これまで1999 年のバンク・バリ事件など様々な汚職疑惑があったが、今日までうまく切り抜けてきている。
なお、ノバント議長は、フリーポート社社長との会合に石油商リザ・ハリッド氏を常に同席させていた。彼こそ、ユドヨノ政権下で国営石油プルタミナのシンガポールの貿易子会社プルタミナ・エナジー・トレーディング(ペトラル)を牛耳った人物で、選挙で副大統領候補だったハッタ・ラジャサ前調整相(経済)と密接な関係がある。どうやら今回の事件は、ノバント議長個人だけに帰せられる問題ではなさそうである。
(2015年11月24日執筆)
「東方見聞録」を記したマルコ・ポーロには「黄金の島ジパング」という記述があり、その島は日本を指すと言われる。だがそれは、本当はインドネシア東部地域の島々なのかもしれない。
最近、インドネシアの日刊紙「コンパス」や英BBCなど国内外メディアがマルク州ブル島での住民による金採掘の現状をレポートした。ブル島の金採掘は 2012年に始まり、急速に拡大した。農産物価格下落に直面した農民が耕作をやめて金採掘を始めたのを皮切りに、学校の先生も金採掘に走ったため、学校教育が頓挫(とんざ)する事態となった。
金採掘の横行の陰で、採掘中の事故死に加え、採取した金の純化に使用する水銀による中毒や汚染の問題が深刻化していた。なかには、毛髪中水銀濃度が18 ppm(ppmは100万分の1・健康な日本人女性で約 1.6 ppm)と高い住民があり、水銀中毒らしき症状の住民も見られるが、現場では「普通の病気」と放置されてきた。
専門家によれば、土壌や河川も水銀で汚染され、空気中に放出された水銀を吸い込んだり、食事を通じたりして住民の体内に水銀が蓄積される。さらには、政府指定の米作地帯であるブル島から汚染米がインドネシア東部地域へ広く移出される可能性がある。
金採掘は、手っ取り早い収入機会を住民に提供したが、その代償は、環境破壊と住民の健康悪化だった。ほとんどが所得の低い住民による違法採掘であり、停止させるのは難しい。
5月にブル島を訪問したジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は、違法採掘場の即時閉鎖を命じたが、行政の動きは鈍い。金採掘はすでに役人や軍・警察の利権となっており、取り締まりが本気で進められる気配はない。
これはブル島に限った話ではない。「どこでも金が出る」と言われるスラウェシ島やカリマンタン島では、ブル島より10 年以上前からゴールド・ラッシュが起こっていた。採掘は幹線道路から見えない隠れた場所で行われ、あちこちで水銀汚染による不毛地が拡散している。インドネシアの黄金の島は、違法採掘という深刻な状況を前に、輝きを急速に失いつつある。
(2015年11月10日執筆)
10月20日でジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権は発足1年を迎えた。1年前の期待にあふれた熱気に比べると、今の国民の政権を見る目は厳しさを増している。大統領個人の目からは、この1年がどう見えた のだろうか。
ジョコウィ氏は、大統領選挙の対抗馬だったプラボウォ氏のような大統領職への政治的野心を持っていたわけではない。プラボウォ氏に勝てる候補として白羽の矢が立ち、大統領になってしまったのである。
ジョコウィ氏自身、ソロ市長もジャカルタ首都特別州知事も大統領も「仕事」と捉えてきた。現場へ自ら出かけて問題の本質を把握しようとする地方首長時代からの活動スタイルは、大統領になってからも変わっていない。大統領府に全国各地とテレビ電話可能な設備を整え、大統領選挙で活躍したサポーターが大統領府へ直接情報提供する仕組みも作った。もっとも、それらが今も機能しているかどうかは定かでない。
しかし、ジョコウィ氏が相手にする利害関係の数と規模は、地方首長時代とは比較にならないほど大きく複雑になった。国会、政党、省庁、実業界などが自らの利益拡大と既得権益保持のために大統領に寄りつき、また、全国各地の現場の問題が一気に押し寄せてきた。政党や実業界のトップでなく、有力支持母体もバックに持たないジョコウィ氏は、それらをうまく調整できず、途方にくれることも多かったであろうことは想像に難くない。
ジョコウィ氏は本来、メディアで言われるような人気取り政治家ではなかった。現場へ出向いて問題解決を図っても、それを誇示することはなかった。しかし、大統領となり、地方首長時代のように自分の思う通りに政策を実行できない現状では、国民の人気度も低下するなかで、存在感をアピールするために人気取りをせざるを得なくなる可能性がある。
これまでのジョコウィ氏のパフォーマンスは、副首長に支えられてこそ発揮できた面がある。その点で、カラ副大統領との関係も今後の注目点となる。
(2015年10月20日執筆)
ジャカルタ~バンドン間の高速鉄道事業をめぐる日中の受注競争は、結局、中国に軍配が上がった。ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は、いったんは双方案を白紙にし、中速鉄道として再提案を受けると表明していたが、最後にそれを翻した。
当然、日本政府は反発した。受注できなかったからというよりも、インドネシア側の対応に誠意と一貫性がなかったからである。地元メディアは、早くも「二国間の信頼関係に影響を及ぼす」との懸念を伝えている。
そもそも本件は、日本による事前調査は行われたものの、中期計画に組み込まれるような緊急性の高い案件ではなかった。政府から「実施するなら国家予算や政府保証なしで」という条件が付いたのはその表れである。
実は、4月時点で中国・インドネシアの国営企業が本件でコンソーシアム(企業連合)を組むことが内定していた。インドネシア幹事の国営建設ウィジャヤ・カルヤ(ウィカ)は7月、このために3兆ルピア(約 256 億円)の政府追加出資を求めた。リニ国営企業大臣は10 月5日、ウィカに4兆ルピアの政府追加出資を行うと発表したが、高速鉄道建設関連ではないとわざわざ強調している。
リニ大臣によると、事業実施に当たって中国との合弁企業を設立し、インドネシア側が60%出資する。また、返済40年(支払猶予10年)、年利2%で、 国営銀行3行が中国開発銀行から50億米ドル(約6,000億円= 30%は元建て)を借り入れる。
国家予算から国営企業へ政府追加出資があり、国営銀行が仮に返済できない場合には政府の後ろ盾がある。「国家予算も政府保証もない」という条件を満たすかといえば、実は微妙なのではないか。
日本側の不満を受けて、テテン・マスドゥキ大統領府長官は、「日本側にはまだ投資可能な案件が多々あ る」と弁明したが、その例のなかに、ジャカルタ~スラバヤ間の高速鉄道が含まれていた。今回のジャカル タ~バンドン間とは別なのか。中国の動きを見ながら、日本もインドネシア側のニーズをしっかり汲み取りつつ、戦略を練っていく必要がある。
(2015年10月6日執筆)
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は9月9日、「9月1日付経済政策パッケージ」を発表した。この経済政策パッケージは国内製造業の競争力強化、戦略プロジェクトの実施迅速化、不動産部門への投資促進を主な目的とする。
重複等のある154規則のうち89規則を整理し、17政令案、11大統領令案、2大統領指令案、63大臣令案を準備するとともに、電子化を軸とした手続簡素化を進め、これらの規制緩和を2015年10月までに終了させるとしている。加えて、中銀からも金融部門での政策パッケージが発出された。
これらのなかには、輸出向けファイナンス強化、特定産業用ガス価格設定、工業団地開発、協同組合経済機能の強化、貿易関連許認可の簡素化、漁民向けLPG政策、牛肉などの食品価格安定、低所得者保護・村落経済活性化、貧困者向けの米の2ヵ月分配給追加などが含まれる。このほか、外国人観光客がパスポートだけで外貨預金口座を開設できる措置も検討されている。
もっとも、政府発表が具体性に乏しかったためか、市場の反応は鈍く、通貨ルピアの軟化傾向に変化はなかった。
そんななか、政府は9月17日、保税物流センター(PLB)計画を発表した。輸入原材料や輸出向け製品をまとめて一時保管する施設で、輸入原材料の関税や輸入税を免除するため、保税貯蔵に関する政令2009年第32号を改訂する意向である。これにより、輸入原材料の保管場所をシンガポールやマレーシアなど国外から国内へ移すよう促す狙いだ。
所在地については、石油ガスはバンテン州メラック、パイプや石油掘削用リグは東カリマンタン州、繊維原料の綿花や牛乳用原乳は西ジャワ州ジャバベカなどが具体的な候補地名として挙げられている。PLBを製造現場の近くに立地させることで、物流コストの削減を意図している。
自前での輸出入で負担の大きい地場中小企業には朗報かもしれないが、ASEAN全体で物流を考える日系企業などにとって魅力的かどうかは、物流コストが実際どれほど下がるかなどを注意深く見ていく必要がある。
(2015年9月22日執筆)
高速鉄道事業をめぐる日本案と中国案の対決は、最終的にジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領が「両案不採用」という結果を出して終わったが、その陰で、汚職疑惑をめぐって政権内部に対立が起こっている様子がうかがえる。
数日前、国家警察ブディ・ワセソ犯罪捜査局長を国家麻薬取締庁長官へ異動する人事が発表された。ブディ・ワセソ氏はかつて、警察と汚職撲滅委員会(KPK)が対立した際、KPKに対して最も厳しく当たった人物で、闘争民主党(PDIP)のメガワティ党首に近いブディ・グナワン警察副長官の側近と見られてきた。
そのブディ・ワセソ氏が直近で捜査に着手した対象が、ジャカルタ北部のタンジュンプリオク港を管轄する国営プラブハン・インドネシア(ぺリンド)2である。ペリンド2はジャカルタ・コンテナターミナル運営を香港系のハチソン社と契約しているが、同社との2015年の契約額が1999年よりも安価であることが疑問視されるほか、中国製クレーンや船舶シミュレーターの購入に関する汚職疑惑が取り沙汰されている。ブディ・ワセソ氏の標的はペリンド2のリノ社長である。
ブディ・ワセソ氏の動きの背後には、マフィア撲滅を図りたいジョコウィ大統領からの特別の指示があるという見方があり、新任のリザル・ラムリ海事担当調整大臣がかき回し役を果たし始めている。こうした動きに対して、猛然と反発したのがリニ国営企業大臣である。そして、ユスフ・カラ副大統領も、警察に対してペリンド2の捜査を行わないよう要請した。ブディ・ワセソ氏の人事異動は、ペリンド2への捜査を止めさせる目的があったとも見られている。
そういえば、高速鉄道の中国案を強力に推したのもリニ国営企業大臣で、不採用になっても、国営企業4社を中国側と組ませる形ですでに採択へ向けて動いている。中国をめぐる利権では、リニ国営企業大臣と闘争民主党が厳しい対立関係にあり、ペリンド2の汚職疑惑などへの追及もまた、表向きの汚職撲滅の掛け声とは裏腹に、政権内部の利権獲得競争の一部にすぎない可能性がある。
(2015年9月8日執筆)
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は、独立記念日に先立つ8月12 日、内閣改造を断行し、6閣僚、すなわち、3調整大臣、国家開発計画大臣、商業大臣、内閣官房長官が入れ替わった。いずれもジョコウィ政権を支える重要な閣僚ポストと言えるが、昨今の経済減速への政府対応が奏功していないとの政府批判をかわす目的がうかがえる。
しかし、この内閣改造はプラスとなるのだろうか。早速、政権内部で不協和音が聞こえ始めた。その音源はリザル・ラムリ海事調整大臣である。
リザル大臣は、リニ国営企業相の政策に噛みついただけでなく、政府による3万5,000メガワットの電力供給計画を野心的だとして、これを主導するユスフ・カラ副大統領を批判した。しかも、カラ副大統領に会いに来るよう求めるといった尊大な態度さえ見せ、彼を任命したジョコウィ大統領からも叱責された。
リザル氏は、かつてアブドゥルラフマン・ワヒド政権で経済担当調整大臣を務めたが、その後は政府に批判的な経済評論家としてメディアを賑わせてきた。最近では、インドネシア商工会議所(カディン)の内部対立で生まれた反主流派カディンの会頭にも就任している。特定政党に所属してはいないが、政治的な発言を繰り返し、正統なエコノミストとはみなされていない。
ジョコウィ大統領は、新設で組織固めが終わらないものの、インフラ関係を仕切れる「おいしい」海事調整大臣ポストに、問題児とわかっていたはずのリザル氏をなぜ起用したのか。リザル氏自身の政治的野心を利用して利権を狙う勢力の存在も考えられる。
リザル氏のほかにも、中銀総裁として目立った成果を上げていないダルミン・ナスチオン氏を経済調整大臣に起用したのも疑問である。ダルミン氏は実物経済やマクロ経済全般への目配りが弱い。
今回の内閣改造を見ると、閣僚としての適材が不足しているとの印象を改めて感じる。内閣改造でジョコウィ政権の経済運営が改善される可能性は期待薄と言わざるを得ない。
(2015年8月25日執筆)
6月末になって、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領周辺から内閣改造を示唆する発言が頻繁に聞かれるようになった。メディアによる世論調査で政権への支持率が35%前後へ落ち込み、ジョコウィ大統領が焦っている様子がうかがえる。
大統領の批判の矛先は経済閣僚に向けられた。通貨ルピアの下落が止まらず、物価上昇が続き、経済成長率が4%台へ低下して、国内の経済活動が減速し始めた。マクロで見れば、これは、中国の経済成長低下などによる世界的な景気後退の影響をインドネシアも受けているに過ぎないのだが、インドネシア国内での対策が遅れていることは否めない。
支持率の低下を背景に、ジョコウィ大統領は、何らかの成果とともに自身の指導力も国民に見せる必要があることだろう。各閣僚の実績評価に基づき、評価の低い閣僚を新閣僚に入れ替える内閣改造は、その格好の機会と言える。
もっとも、ジョコウィ大統領による各閣僚の実績評価が客観的かは疑問である。各政党や業界団体などは、気に入らない閣僚を落とすための情報リークとともに、自薦他薦の閣僚候補を大統領周辺にささやき始めている。
一例を挙げると、「大統領を無能呼ばわりした」との理由でリニ国営企業大臣の更迭が噂される。リニ大臣は国営企業幹部人事で自身に近い人物を配置したことで、それらポストを欲する与党各党などから痛烈に批判された。とくに、リニ大臣に近いとされた闘争民主党のメガワティ党首や他の党幹部は、彼女を裏切り者呼ばわりしている。
一方、闘争民主党など与党との軋轢に悩むジョコウィ大統領側には、野党から閣僚を入閣させて自身の政治基盤強化へ動き出そうという思惑もある。すでに、国民信託党や民主党などからの入閣を示唆し始めている。
ジョコウィ大統領が批判する経済閣僚にはプロフェッショナル出身者が多い。彼らが内閣改造で更迭されれば、プロフェッショナル重視の「働く内閣」の看板が色褪せ、政党以外の大統領支持者からの批判が高まることは間違いない。
2014年2月に入り、地元マスコミは、「スラバヤ市のリスマ市長が辞任を表明した」とのニュースを流した。清廉潔白で知られる彼女に汚職疑惑やスキャンダルが急に湧いたわけではない。これまで積み重なってきた議会や政党との対立がここに来て一気に噴出したのである。
リスマ市長が辞任をほのめかした理由の一つは、ウィシュヌ副市長の就任である。リスマは2010年、 副市長候補であるPDIPの重鎮バンバン前市長と組み、闘争民主党(PDIP)の単独推薦で当選した。このときのPDIPスラバヤ支部長がウィシュヌ現副市長である。
バンバン副市長は、2013年8月の東ジャワ州知事選挙に州知事候補として立候補するため、副市長を辞任した。これを受け、スラバヤ市議会で副市長候補の選任が行われ、PDIP会派のウィシュヌ代表が選ばれた。この選任プロセスをめぐっては書類偽造の疑いがあり、リスマ市長は結果を認めようとしなかったが、内務省や東ジャワ州知事からの指令で、ウィシュヌ氏は副市長に就任した。リスマ市長は病気を理由に副市長就任式を欠席した。
実は、リスマ市長にとってウィシュヌ氏は怨念の相手である。リスマ市長は、すでに工事が始まっていた市内高速道路建設を「庶民のためにならない」と強硬に反対したほか、路上の広告や立看板を規制するために広告税の引き上げを図ったが、市議会がこれらへ強く反対した。2010年の市長就任から半年も経たないうちに、市議会は、リスマ市長を市長の座から引きずり降ろそうと画策したが、その先頭に立っていたのが、与党のはずのPDIP会派のウィシュヌ代表であった。
その後、PDIP党中央の指示で解任騒動は収まったが、市議会のリスマ市長への不信は増幅し続けた。最近では、ドリーと呼ばれる東南アジア最大規模の売春街の閉鎖や、スラバヤ動物園の管理運営でも、リスマ市長への批判が出ている。市議会は、開発事業を進めたい建設業界などと一緒に、 2015年スラバヤ市長選挙での彼女の立候補・再選を防ぐため、必ずしも必要とはされない副市長選出を強行し、ウィシュヌ副市長を据えたのである。
リスマ市長はまだ辞任報道を否定も肯定もしていない。辞任反対デモも起こった。リスマ市長をめぐる動きは、同様に政治的な思惑と離れた新タイプの政治家で、大統領候補人気トップのジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事の動きだけでなく、今後のインドネシア政治を展望するうえでも注目される。
(2014年2月16日執筆)
昨今、ジャカルタ首都特別州を変えようとするジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事とアホック州副知事が注目されているが、スラバヤのリスマ市長も負けてはいない。どこにでもいる普通のおばさんといった風貌の彼女は、ジョコウィの庶民性とアホックの戦闘性の両方を兼ね備え、スラバヤを変革してきた手腕が国内外から高く評価されている。
トゥリ・リスマハリニ(リスマ)市長の前職はスラバヤ市環境美化局長だった。2005年に同局長へ就任後、市内の緑化やゴミ対策など環境改善へ取り組んできたが、政治的野心はなかった。2010年、3期目に立候補できないバンバン市長(当時)が副市長へ立候補して市政をコントロールするため、彼女を市長候補に担ぎあげた。しかし、当選後のリスマ市長は副市長の操り人形にはならず、独自のスタイルを見せていった。
リスマ市長の庶民性に関するエピソードは事欠かない。彼女はバイクの後部座席にまたがり、カンプンの細い路地へ入って住民と直接対話し、そこで出された問題を解決していく。毎朝の散歩の際にゴミを拾って歩くのが日課であるが、水が濁って悪臭を発する排水路に溜まったゴミを見つければその場で自ら掻き出す。汚れないように指先でゴミをつまんでいたアシスタント職員には「明日から出勤に及ばず」と告げ、その場で解雇した。 夕方から夜にかけては、公園でたむろする若者たちに声をかけ、家へ帰って勉強するように諭す。東南アジア最大ともいわれる赤線地帯を閉鎖に至らせ、売春婦の再就職や売春に走る少女たちの更生にも熱心に取り組む。さらに、目の前で交通渋滞があれば、乗っていた車からいきなり降りて、自ら交通整理を始めることさえあった。
リスマ市長は同時に、間違ったことに対する戦闘性も発揮する。たとえば、パサール・トゥリを緊急視察した際に、建物のデザインが当初の予定と違っていたことに怒り、本来のデザインに1週間で戻させた。また、2ヵ月経っても工事を始めない建設業者に対して、工事の中止やブラックリスト化だけでなく、裁判に訴えると圧力をかけた。
ジャカルタ首都特別州のアホック副知事は、許認可などの行政サービス、効率的な予算作成手法、ゴミ対策などをスラバヤ市から学ぶことを表明している。リスマ市長はジョコウィとアホックの特徴を兼ね備えるだけでなく、彼らの学びの対象ともなっている。 リスマ=ジョコウィ+アホック。従来とは根本的に異なる新しい指導者が地方から生まれ始めている。
(2013年10月18日執筆)
このところ、事あるごとに、ジョコ・ウィドド大統領とユスフ・カラ副大統領との間の意見の相違が表面化している。
直近の出来事としては、全インドネシア・サッカー連盟(PSSI)活動凍結問題がある。組織運営に問題があるとして、イマム青年スポーツ大臣がPSSIの活動凍結を決定し、ジョコウィ大統領もそれを支持した。それに対して、カラ副大統領はPSSI活動凍結の見直しを強く求めたが、イマム大臣は決定を覆さなかった。
PSSIの活動凍結の背景には、政治家がPSSIに影響を与える傾向が強まったことがある。とくに、ゴルカル党のアブリザル・バクリ党首はPSSI傘下の複数クラブチームを持ち、大統領立候補など自身の政治的野心のためにPSSIを利用する懸念があった。ジョコウィ大統領からすれば、現在でも動員力のある PSSIを通じて政治的圧力を受ける恐れがあり、政権基盤の安定にはPSSI活動凍結が有益と判断したとみられる。
ジョコウィ政権は、2つに分裂したゴルカル党のうち、アグン・ラクソノ前副党首を党首とするグループを正統と認め、アブリザル・バクリ党首派を切り捨てようとした。しかし、行政裁判所がアブリザル・バクリ党首の正統性を認めたため、元ゴルカル党党首でもあるカラ副大統領が両派の仲介に当たっている。アチェ和平など紛争終結に努めてきたカラ副大統領は、敵と味方を峻別せず、両者を包含してゴルカル党を丸くまとめようと試みているように見える。
カラ副大統領は以前、ユドヨノ大統領と組んで副大統領を務めた際、「真の大統領」とメディアに名付けられるほどのやり手ぶりを見せ、警戒したユドヨノ大統領が2期目には組まなかった過去がある。
ジョコ・ウィドド大統領がルフト・パンジャイタン氏を長とする大統領府オフィスを新設したのも、同様の警戒の表れである。カラ副大統領は「事前に話がなかった」として、同オフィスの新設に反発した。両者は、ブディ・グナワン氏をめぐる国家警察長官人事でも対立した。大統領と副大統領との確執はまだまだ続きそうである。
先週、北スマトラ州に続いて、6月18〜19日に中ジャワ州を訪問した。中ジャワ州投資局のスジャルワント長官は、「中ジャワはインドネシアで最も投資しやすい州を目指す」と胸を張った。
中ジャワ州の特色としては、全国最低レベルの最低賃金、極めて少ない(というかほとんどない)労働争議、豊富な資源ポテンシャル、などが挙げられるが、それらはよく知られた特色である。これら以外に、他州には見られない特色があった。
それは、官民一体となって、投資をサポートする体制を整えていることである。州レベルでは、政府と商工会議所が一緒になって投資対策チームを作り、常に県・市政府とコンタクトし、モニタリングする体制になっている。たとえば、ある県で投資を阻害する問題が起こったら、すぐに州のチームも動くのである。とくに、すでに投資した企業が安心して活動できる環境を維持することが狙いである。
それだけではない。州政府は、州内のすべての県・市を対象としたパフォーマンス評価チームを結成し、毎年、表彰している。この評価チームは実業界・学界・市民代表から構成され、政府関係者が含まれていないのがミソである。チームは、実際に現場で行政サービスや許認可事務の状況を把握し、評価の重要な要素としている。
これによって、中ジャワ州の県・市の間で、行政サービスや許認可事務の簡素化を含む善政競争が起こっている。投資を呼び込むために、許認可に要する期間の短縮やサービスの改善にしのぎを削っている。各県・市の創意工夫で、様々な新しい試みが生み出される。たとえば、従来、多くの県・市政府は自己財源収入を確保するために、わざと許認可を面倒にする傾向さえあったが、競争意識によって、それが大きく改善へと向かっているという。
以前、ジョコウィ大統領がソロ市長だったときに、このパフォーマンス評価でソロ市は3年連続で州内第1位に輝いた。そうした実績を引っさげて、ジョコウィは中央政界へ進むことになったのである。ジョコウィが中ジャワ州から去った後は、各県・市が毎年入れ替わり立ち替わり第1位を占めるようになり、競争状態に拍車がかかっている。中ジャワ州の善政競争マネジメント能力の高さがうかがえる。
このように、州全体での投資へのサポート体制ができており、「インドネシアで一番投資しやすい州になる」という言葉もあながち嘘ではない気がしてくる。
とはいっても、日本人駐在員が中ジャワ州に駐在するには、日本的な要素が少ないことは否めない。中ジャワ州には日系の工業団地はまだない。州都スマランには日本料理店もほとんどない。ゴルフ場はあるが、日本人向けの娯楽施設も限られている。この辺は今後の課題となる。
しかし、中ジャワ州は日本に最もなじみのある州の一つなのである。実は、技能実習生や研修生を日本へ最も多く送り出しているのが中ジャワ州とのことである。中ジャワ州のどこへ行っても、日本での経験を持つ若者たちが存在する。日本企業は、そんな彼らを生かすことができるのではないか。
技能実習生や研修生を単なる低賃金未熟練労働力ととらえず、将来の日本企業のインドネシア投資、あるいはインドネシアでのOEM生産などを念頭に、彼らとの関係を戦略的に作っていくことがこれから重要になってくるだろう。実際、日本の中小企業がインドネシアへ来て、自分たちと一緒に低コストで材料や部品を作ってくれるインドネシアの中小企業を探しているという話もある。もしそうならば、戦略的に技能実習生や研修生を日本で活用して、次のステップへつなげることが有用ではないだろうか。
そんな場としても、中ジャワ州はなかなか有望なのではないかと思う次第である。
中ジャワ州に関して、何かお問い合わせになりたい方は、私まで遠慮なくご連絡いただければ幸いである。日本でもっと中ジャワ州を勝手にプロモートしたいと思っている。
インドネシアのジョコ・ウィドド政権は5月13日、石油マフィア撲滅策の一環として、国営石油会社(プルタミナ)の子会社で香港に本社のあるプルタミナ・エネルギー貿易会社(ペトラル)を解散させた。ペトラルはこれまで、シンガポールの子会社を通じて原油・石油製品の輸出入を取り仕切ってきたが、その機能は、プルタミナ本社の内部ユニットである統合サプライチェーン(ISC)が担うことで、マージンコストが大幅に削減できるとみている。
ユドヨノ前政権でもペトラル解散への動きはあったが、実現できなかった。スディルマン・エネルギー鉱物資源相は「大統領府が支持しなかったため」と発言したが、それに対してユドヨノ前大統領が激怒した。ユドヨノ氏はツイッターで、「大統領府にペトラル解散の提案が出されたことはないし、ブディヨノ前副大統領を含む当時の閣僚5人に聞いたがその事実はない」と反論し、名誉毀損(きそん)だと息巻いた。
ユドヨノ時代のペトラルは事実上、シンガポールの「ガソリン・ゴッドファーザー」と呼ばれた貿易商リザル・ハリド氏が牛耳っていた。リザル氏は、ハッタ前調整相(経済)、エネ鉱省幹部、プルタミナ幹部らと近く、ユドヨノ氏周辺との関係さえうわさされた。大統領選挙でハッタ氏が副大統領に立候補した際、対抗馬のジョコ大統領候補を中傷する大量のタブロイド紙が出回ったが、その資金源はリザル氏だったと報じられている。
一方、ジョコ政権下で石油マフィア撲滅を指揮するアリ・スマルノ氏は、闘争民主党のメガワティ党首が大統領だった時代にプルタミナ社長を務めた人物で、リニ国営企業大臣の実兄である。アリ氏は当時、ペトラルを縮小してISCを主導させたが、偽原油輸入疑惑を起こし、ユドヨノ政権下でプルタミナ社長職を更迭された。スディルマン・エネ鉱相は当時アリ氏の部下で、プルタミナのサプライチェーン管理部長だった。
石油マフィア撲滅を名目としたペトラル解散の裏には、深い闇がある。
ジョコ・ウィドド政権における2015~19年の中期開発計画(RPJMN)は5月中に策定予定だが、その概要が明らかになり始めている。注目されるのは、インフラ整備予算である。
政府によると、19年までに必要なインフラ整備向け投資は5,519兆ルピア(約4,200億米ドル=約50兆円)であり、うち442兆ルピア(約340億米ドル)を外国借款で賄う。外国借款の68%に当たる299兆ルピア(約230億米ドル)は公共事業・公営住宅省向けで、浄水・衛生(約50億米ドル)、高速道路(約30億米ドル)、橋梁・道路ネットワーク(約20億米ドル)、洪水対策(約16億米ドル)などに配分される。
ところが、民間調査機関である経済金融開発研究所(INDEF)によると、上記5年間のインフラ整備への国家予算額は1,178兆ルピアに過ぎない。この数字が本当ならば、残りの3,899兆ルピアを外国借款と国家予算以外から調達しなければならない。
実際、ジョコ政権下では、ジャカルタ=スラバヤ間の高速鉄道建設、スマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島での鉄道建設、ジャカルタの地下鉄建設、港湾整備、発電所建設など、さまざまな大プロジェクトがぶち上げられている。しかし、そのほとんどは、民間資金のみか官民パートナーシップ(PPP)で賄うことが想定されている。ジョコ政権も、大規模インフラ整備に国家予算を充当しない方針を維持したままである。
ジョコ大統領は、国際会議の場でこれらインフラ事業への投資を外国投資家へ積極的に呼び掛けている。一方で、アジア・アフリカ会議60周年総会では、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)などの既存国際機関による従来の援助スキームを批判する演説を行った。
インドネシアは、中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の本部誘致を目指すなど、中国寄りの姿勢を鮮明にしつつある。実際、中国の習近平主席からは、中国の2つの国営銀行を通じて、インドネシアのインフラ投資向けに500億米ドル(約650兆ルピア)という巨額な借款供与を提示された。中国重視を印象づけながらも、中国に対抗する日本などから政府借款以外の民間資金供与をさらに促す戦術を採っているものとみられる。
闘争民主党(PDIP)は4月9~12日に全国党大会を開催し、メガワティ現党首が再選された。メガワティ体制は2019年まで続き、今回もまた、メガワティの党というイメージを払拭(ふっしょく)することがなかった。それどころか、娘のプアン氏と息子のプラナンダ氏が中央執行委員会の役員に選出され、メガワティ・ファミリーの政党という性格はむしろ強まったといえる。
この全国党大会には、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領も出席したが、大統領としての演説はなかった。ジョコウィ氏はPDIPの一般党員に過ぎないというのが理由だが、政党の全国大会で大統領が出席したのに演説しなかったというのは極めて異例であり、PDIPは大統領職を誹謗(ひぼう)したとの批判が巻き起こった。
しかし、メガワティ党首やその側近は、従来から「一般党員であるジョコウィ大統領は、PDIPの下僕である」との発言を撤回しようとしなかった。今回の党首就任演説でメガワティ党首は、あたかも自分が真の大統領であるかのような表現さえ使った。
娘のプアン氏はジョコウィ内閣の人材開発・文化調整大臣であり、ジョコウィ大統領からPDIPの要職を離れることを再三求められたにもかかわらず、それを無視してきたばかりか、今回の全国党大会で再び党の要職に就いた。ジョコウィ大統領はメガワティ・ファミリーから完全に見下される形となった。
国家警察長官人事などをめぐって、メガワティ党首やPDIPにはジョコウィ大統領が自分の思うように動いてくれないことへの強いいら立ちがある。しかし、PDIPは、ジョコウィ大統領が政党批判層を取り込んだからこそ大統領選挙に勝利したことを無視し続けている。
ジョコウィ大統領がPDIPの一般党員である限り、メガワティ党首らの大統領職に対する侮蔑は続き、政党の下僕というイメージを払拭することは難しい。ジョコウィ大統領が離党して新党をつくるという期待もあるが、ジョコウィ大統領への失望が無党派層などで急速に広まれば、それも難しくなるだろう。ジョコウィ政権は予想以上に短命で終わるのだろうか。