昨日は、午後、ようやく雨が上がり、再びカカオ農家を訪問することができました。
カカオは収穫後、実を割って中からカカオ豆を取り出し、それを発酵させてから、天日干しにして水分を飛ばし、加工へまわす、というのが一般的です。カカオを発酵させると、あのカカオ独特の芳醇な香りが生まれ、チョコレート原料となります。
上の写真はカカオ豆を半分に切った断面です。右から3番目付近の黒いのが発酵カカオです。一番右側は半分ぐらい発酵しています。残りの紫色のものはまだ発酵が十分でないカカオです。
ところが、ボアレモのカカオ農民の多くはカカオを発酵させず、未発酵のまま集配人に売ってしまいます。それはなぜでしょうか。
一つには、すぐにお金が欲しいからです。何はともあれ、現金がすぐに欲しいので、未発酵のまま天日干しして、すぐに売ってしまうのです。集配人も、天日干しして、水分を飛ばすことしか要求しません。
二つには、発酵は面倒くさいのです。発酵させる4〜5日間が無駄になるし、1日に何回かは発酵中のカカオを手でかき回さなければならないし、発酵してくるとカカオが熱くなるし、こんな手間暇かけたくない、という理由です。
そして、それらの理由の根本には、集配人から提示される価格は一つで、発酵してもしなくても、買い取り価格が同じ、という問題があります。
皆さんがカカオ農家だったら、それでも発酵させますか。しないですよね。
インドネシア産カカオは、世界市場では低品質のカカオとみなされており、しかも家畜のエサ用など低品質カカオの市場が存在するので、あえていいカカオを作らなくても済む構造ができ上がっています。
実は、発酵カカオと未発酵カカオの価格差がないという問題は、私がマカッサルでJICA専門家として地域開発政策アドバイザーを務めていた20年前から、全く変わっていないのです。それを今回、改めてボアレモのカカオ農家で確認しました。
しかし、状況は変わり始めました。ごくごく一部ですが、発酵カカオを未発酵カカオよりも高く買い取る動きが出始めました。その先陣を切った企業の一つが
ダリケーです。
ダリケーは発酵カカオを高く買い取るだけでなく、カカオ農民に対して、カカオの栽培・管理技術、発酵の方法などを指導し、それをマスターしてちゃんとした発酵カカオを作った農民からはプレミアムをつけた価格で買う、ということをスラウェシで行なっています。でもこれは、良いものを作った人には正当な価格で評価する、という商売として当たり前のことをやっているに過ぎないのです。
ボアレモ県のカカオ生産は年産わずか1000トンぐらいの少量生産ですが、県政府がカカオ栽培を奨励し、苗木や肥料などを無料で農民に配っています。このやり方だと、農民はオーナーシップを持たず、やる気も出ないのではないかと思いました。
ところが、現場へ行くと、過去にカカオ生産を経験した農民がリーダー格となり、他の農民を発酵カカオ生産へ誘っていました。
彼らの多くは、これまでトウモロコシ農家でした。気候変動の影響か、トウモロコシ生産が2期連続で不作となり、中間業者から借りた借金の返済に追われたと言います。トウモロコシで地獄を見た農民たちは、1回植えれば20〜30年持ち、毎週のように収穫でき、しかも初期費用は政府もち、というカカオへなびきました。そして、今、発酵させると、世界市場では高く売れるということを農民が知り始めました。
ボアレモ県のカカオ生産は、まだ緒につき始めたばかりで、生産量はごくわずかです。しかし、長年カカオを作ってきた農家とは違い、最初から発酵カカオの良さを理解し始めています。これからの戦略を間違えなければ、少量ではあるが、高品質の発酵カカオを生産できる場となり得るかもしれません。
これからのボアレモ県のカカオ農民の努力に注目していきたいです。