発展途上国の多くの都市が直面する最大の問題の一つがゴミ問題です。インドネシアもその例外ではありません。
首都ジャカルタの大きな目抜き通りは街路樹の緑に溢れ、色とりどりの花が咲き乱れています。広めの歩道も完備した大通りを通りながら、「インドネシアも発展したなあ」と感じた方々も多いことと思います。
でも、外国人があまり通らない裏通りに入った途端、様相は変わります。下水道の普及率が数%というインドネシアの大都市で、平気で川や側溝にゴミを捨てている人を見かけます。高級車の窓から道の真ん中に堂々とゴミを捨てる人を見たこともあります。
そんな姿を見ながら、一つの仮説を思いつきました。インドネシアと日本では、公園や道路のような「公共の場所」についての認識が違うのではないか、と思ったのです。
日本での「公共の場所」とは、みんなの場所。一方、インドネシアでの「公共の場所」とは、誰のものでもない場所。
みんなの場所だから、次に使う人のことを考えてきれいにするのでしょう。でも、誰のものでもない場所なら、きれいにしようと思うでしょうか。ゴミはそういうところへ捨てられるのではないでしょうか。
実際、インドネシアの低所得層の方々の住むところを訪れると、家の中や周りはみんなきれいにしています。でも、その集落の入口や他の集落との境、あるいは目の届かない隠れた場所は、ゴミでいっぱいです。
誰でも、自分のいるところ(自分のものであるところ)はきれいにしておきたいので、誰のものでもないところ(政府所有のものも含む)へゴミを捨てるように思うのです。
目に見えないところ、みんなのものとは見なさないところだったら、きっと日本でも、分からないようにゴミを捨てるのではないでしょうか。
そして、日本でもインドネシアでも、誰も見ていないときにゴミを捨てるのです。インドネシアでよく見るのは、誰も見ていないと思った人がポロリと路上へ、タバコの吸い殻などのゴミを(捨てるではなく)落とす光景です。たまたま、私がそれを見ていて、落ちたものを「落ちましたよ」と言って拾ってあげると、すごくバツが悪そうです。
みんなの場所の指す範囲や数が日本では広く、インドネシアでは狭いのかもしれません。
また、インドネシアのあるイベントでゴミを拾っていたら、「拾うな」と言われました。ゴミ拾いを職業としている人がいるので彼らの仕事を奪うな、というのです。そういう考え方の人は、きっと大多数なのだと思います。
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このようななかで、ジャカルタをきれいにしたいと思う人々が始めた「ジャカルタお掃除クラブ」の活動が、様々な紆余曲折を経て、5年目を迎えました。
「インドネシア=日本の新たなパートナーシップ」セミナー」
(2015年1月28日)に登場したジャカルタお掃除クラブの面々
人口1000万人の大都市のゴミ問題とゴミに対する人々の認識を考えると、彼らの活動が意味を持つのか、という疑問が湧くのもうなずけてしまいます。日本関連のイベントなどで活動すると、他人のゴミを拾ってくれる清掃員と捉える人が多くいたようです。
でも、5年の間に、いろいろな変化が起こり始めました。まず、日本人だけで始めた活動が今ではインドネシア人が中心の活動へ変わり、参加者も徐々に増えてきています。ジャカルタだけだったのが、スラバヤ、メダン、バニュワンギなどの他都市へ広がり始めました。そして、別の名前のグループが、同様の活動を始めました。
形だけかもしれませんが、可燃ゴミと不燃ゴミとを分けたゴミ箱がジャカルタなどで一般的に見られるようになりました。「ゴミ箱はどこにあるのか」と聞かれることが多くなりました。地方都市などでは、地方政府がリサイクル・ゴミを収集して業者へ売るゴミ銀行の運営にかかわり、住民に「ゴミはお金になる」という意識を植えつけ始めました。
インドネシア第2の都市スラバヤは、ジャカルタとは違ってきれいな街、という評判があります。たしかに街を歩くとそう感じます。でも、それは、今のリスマ市長が環境美化局長だったときから予算を十分にとり、朝も夜も、頻繁に市政府が人員を配して清掃活動を行なっているからなのです。市民のゴミに対する意識が他よりも進んでいるからではないのが残念です。先はまだ長いと言わざるをえません。
ジャカルタお掃除クラブの活動は、市民の意識改革を目指しています。設立者である芦田氏は大事な友人ですが、彼の活動にエールを送りつつ、お掃除クラブが必要でない世の中になることがお掃除クラブの最終目標だよね、とずっと言い続けてきました。
5年経って、意識改革へ向けたその活動は、根っこをしっかり生やし始めたのだと感じています。そして、彼らの真摯な活動から、日本の我々自身が学ぶことも大きいのではないかと確信します。
ジャカルタお掃除クラブが日本を視察した際の活動を振り返るビデオ(インドネシア語版)が完成しました。以下のフェイスブックのサイトで予告編を見ることができます。
予告編
なお、日本語版全編をご覧になりたい方は、芦田氏(ts_ashida@yahoo.co.jp)までご連絡ください。DVDを無料でお送りするそうです(インドネシア国内のみかどうか、ご本人にご確認ください)。