【インドネシア政経ウォッチ】第89回 第2回討論、両者とも精彩を欠く(2014/06/19)

6月15日夜、大統領候補による2回目のテレビ討論が生中継された。今回のテーマは経済開発と社会福祉で、副大統領候補を伴わず、プラボウォとジョコウィの一騎打ちとなった。

両者とも、インドネシアの国益に沿った自立した競争力のある経済を確立する、貧困層に配慮した社会福祉を進める、といった開発の方向性に大きな違いはなかった。外国資本に対しては、表現に差はあるものの、インドネシア自身の利益に沿わない場合には規制をかけるという点で同じだった。自国民を念頭に置いた選挙運動を行っているため、実際の政策はより現実的になると予想されるものの、注意を払う必要はある。

しかし、両者の政策実施の方法論は全く違っていた。プラボウォは国富が外国資本を通じて国外へ大量に漏れていることを前提に、その漏れをなくし、国内で活用することで、インフラ整備も庶民経済も社会福祉も実現できると説いた。とくに大臣や官僚の福利厚生を高め、適切な政府介入を行うことを強調した。また、外国投資を歓迎するが、地場企業を弱体化させないことを求めた。

他方、ジョコウィは、既存の予算を精査し、効率的かつ公正に執行するための電子化を進め、燃料補助金などを削減して教育・保健へ振り向けるとした。とくに教育は彼の説く「精神革命」の根本であり、「最優先で予算配分する」と述べた。外国投資については、既存の契約の順守が基本だが、中身を精査し、国家利益を著しく阻害するものは改訂するという考えを示した。

テレビ討論を見る限り、両者とも経済は得意でない様子がうかがえた。とくにジョコウィは言葉に力がなく、いかにも自信なさげだった。一方、プラボウォは朗々と話すものの、中身が乏しかった。創造産業に関する議論で、プラボウォが「良いものは良いと認めたい」とジョコウィに賛意を示す一幕もあったが、両者とも精彩を欠き、筆者から見ると、引き分けに終わった観がある。

【インドネシア政経ウォッチ】第88回 第1回討論会はジョコウィが圧倒(2014年6月12日)

6月9日夜、正副大統領候補による第1回のテレビ討論が生中継された。テーマは民主主義、清潔な政府、法の支配の確立である。

プラボウォ=ハッタ組の弁舌は滑らかで、さすがに演説慣れしている。しかし、話のほとんどは規範的かつ一般的な内容に終始し、司会者の質問に的確に答えられない部分もあった。他方、ジョコウィ=カラ組の弁舌はややぎこちなく、持ち時間をかなり余すなど、時間を有効に使えなかった。ただ、話のなかには電子政府システムの構築や地方への予算施行など、 細かいテクニカルな内容も含まれ、司会者の質問にもほぼ的確に答えていた。

圧巻は、両者間での相互質問だった。ジョコウィ=カラ組のカラは、プラボウォが大統領に当選した場合、彼自身が関わったとされる活動家の拉致・行方不明事件など過去の人権問題へどう対処するかを質した。プラボウォは「自身が軍職を解かれたのは上官の判断」「人権問題に関わったかどうかは上官に聞いてほしい」とやや感情的に答えたが、その判断が不当であるとは訴えなかった。

間接的だが、プラボウォは公開の場でその上官の判断を容認したのである。そして、「爆弾などを使って国家破壊を企てる者たちから国を守ってきた」「罪のない多くの国民を守ってきたのが自分だ」と強調した。過去の人権問題への対応に関する答えはなかった。

一方、プラボウォはジョコウィに対して、金のかかる地方首長選挙や地方政府分立への対処法を質した。ジョコウィは、地方首長選挙の一括開催や開発効果を基にした地方政府分立案の検討を通じて、予算節約を図ると答えた。国家予算を使って地方政府を中央に従わせる「予算政治」という用語を使った。

途中、プラボウォ=ハッタ組がジョコウィ=カラ組の主張する電子政府システムに賛成するなど、第1回討論はジョコウィ=カラ組が圧倒したという見方がソーシャルメディアでは支配的だった。大統領選挙投票までにテレビ討論はさらに4回開催される。

【インドネシア政経ウォッチ】第87回 政党の党員拘束は効かない(2014年6月5日)

総選挙委員会は5月31日、書類審査、健康診断などの結果を踏まえ、プラボウォ=ハッタ組とジョコウィ=カラ組を正副大統領候補として正式決定し、翌6月1日、 前者が1番、後者が2番と候補ペア番号を確定した。そして6月4日から選挙運動が始まった。

各政党は、中立を表明した民主党を除いていずれかの候補ペアへの支持を表明したが、各党内は支持一本化でまとまっていない。最終段階でプラボウォ=ハッタ組への支持を表明したゴルカル党では、「支持と大臣ポストとを取引したことは許せない」と息巻く若手党員や退役軍人出身者のほか、カラ元副大統領の地盤であるインドネシア東部地域の党地方支部の一部が公然とジョコウィ=カラ組支持を唱えている。

ゴルカル党のアブリザル党首は、党の方針に従わない党員への処分をちらつかせるが、元党首のカラ自身が党員でありながらジョコウィと組み、それを黙認したことからも分かるように、党の方針に反する者を除名した前例がない。ジョコウィ=カラ組へは、ゴルカル党の半数以上が支持に回ると見ている。

また、ハッタが党首を務める国民信託党(PAN)では、PANの設立者であるストリスノ元党首がジョコウィ=カラ組支持を表明し、同組の選挙チームに加わった。

他方、ジョコウィ=カラ組を支持する民族覚醒党(PKB)でも、当初大統領候補としていたマフッド元憲法裁判所長官と歌手のロマイ・ラマが同党執行部への不満を露わにし、プラボウォ=ハッタ組の選挙チームへ加わった。

中立を掲げた民主党も分裂した。大統領候補選考会に出た党員も、ダラン国営企業大臣やパラマディア大学のアニス学長はジョコウィ=カラ組へ、ユドヨノ大統領の従兄弟であるプラモノ元陸軍参謀長やマルズキ国会議長はプラボウォ=ハッタ組へそれぞれついた。

このように、大統領選挙では政党による党員拘束が実はほとんど効かない。したがって、政党を軸に大統領選挙を予測するのはあまり有効ではないと考える。

【インドネシア政経ウォッチ】第86回 正副大統領候補決定、一騎打ちへ(2014年5月22日)

大統領候補届け出の締め切り1日前の5月19日、2組の正副大統領候補の出馬宣言が行われ、大統領選挙は一騎打ちとなることになった。

大統領候補のジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)知事は、ゴルカル党の重鎮ユスフ・カラ元副大統領を副大統領候補と発表し、ジャカルタ市内の「1945年闘争会館」で出馬を宣言した。ジョコウィ=カラ組は、闘争民主党(PDIP)、民主国民党(NasDem)、民族覚醒党(PKB)、ハヌラ党の4党が推薦する。出馬宣言後、2人はPDIPのメガワティ党首宅に寄った後、自転車で総選挙委員会へ出向き、 届け出を済ませた。

もう1人の大統領候補、グリンドラ党のプラボウォ党首は、ハッタ・ラジャサ国民信託党(PAN)党首・前経済調整大臣を副大統領候補と発表し(届け出は20日)、スカルノ初代大統領が住んだ「ポロニアの家」で出馬宣言をした。プラボウォ=ハッタ組は、グリンドラ党、PAN、開発統一党(PPP)、福祉正義党(PKS)、月星党(PBB)に加え、総選挙得票率2位のゴルカル党が土壇場で加わり、6党が推薦することになった。

ゴルカル党は、ジョコウィかプラボウォかで支持が揺れたが、アブリザル・バクリー党首へ一任された。まず、プラボウォへ接近するが、3兆ルピアの献金を要求されて決裂。次にジョコウィへ接近し、連携の見返りに11閣僚ポストを求めて拒否された。そして最後、プラボウォが上級相ポストをアブリザルに提示した後、プラボウォ支持が確定した。ゴルカル党は党員のユスフ・カラを支持せず、他党候補を支持することになった。

残る民主党は、大統領候補党内選考会で1位となったダラン・イスカン国営企業大臣を擁立せず、 副大統領候補にユドヨノ党首(大統領)の義弟であるプラモノ・エディ元陸軍参謀長を推し、アブリザルと組ませようとしたが、断念した。民主的な手続きを無視しても、汚職事件への関与を疑われるユドヨノ周辺を守る意味合いがあり、親族であるハッタ側につくものと見られる。

【インドネシア政経ウォッチ】第85回 ジョコウィ人気に陰り?(2014年5月8日)

大統領選挙投票日の7月9日まで2カ月となった。しかし、2期10年で任期満了となるユドヨノ大統領に代わる新大統領を選ぶというのに、ユドヨノ再選となった前回と比べても、今回はさらに盛り上がりに欠けている。

4月9日投票の総選挙(議会議員選挙)の開票確定結果は5月9日に公表される予定だが、それに基づいて各党の得票数や議席数が確定し、政党間の合従連衡を経て正副大統領候補ペアが具体的に決まるので、大統領選挙が盛り上がるとすればその後だろう。

そんな低調ムードのなか、想定される大統領候補の人気投票最新版の結果が5月4日に発表された。SMRCというコンサルティング会社によると、ジャカルタ首都特別州知事のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)の支持率は、2013年3月時点では41%だったが同年12月には51%まで上昇。それが14年2月には39%へ一気に下がり、同年3月に52%に急上昇した後、同年4月には再び47%へ下降している。

一方、グリンドラ党のプラボウォ党首の支持率は、13年6月時点で20%程度だったのが、14年4月には32%へ大きく上昇している。過去1年の支持率の変化を見ると、プラボウォの方がジョコウィよりも急上昇したことになる。

ちなみに、ゴルカル党のアブリザル・バクリー党首は14年4月現在で9%程度であり、大統領選挙は事実上、ジョコウィとプラボウォの2人で争われる形となっている。低調な雰囲気のなかで、メディアやインターネットを使ったジョコウィ陣営とプラボウォ陣営の中傷合戦は、露骨な個人攻撃も含めて激しさを増している。

もっとも、現時点で確実に大統領選挙へ出馬できそうなのは、闘争民主党と全国民主党(NasDem)が推し、民族覚醒党(PKB)も加わるのが確実なジョコウィのみである。他方、プラボウォ側は、党首を務めるグリンドラ党と他党との連立がまだ固まっておらず、焦りすら見える。その意味でも、人気がやや落ち目とはいえ、ジョコウィがまだリードを保っているといえる。

【インドネシア政経ウォッチ】第84回 LCGCと補助金付きガソリン(2014年4月24日)

インドネシアでは低価格グリーンカー(LCGC)の販売が好調である。インドネシア自動車工業会によると、2014年1月に1万4,286台、2月に1万6,270台のLCGCが販売された。ただし、トヨタ自動車の「アバンザ」などの低価格帯の多目的車(LMPV)に比べると、LCGCはまだ半分以下の販売台数にとどまる。しかし、今後、都市での核家族化や中間層の拡大に伴って、LCGCの販売台数は増加していくものとみられる。

低価格を売り物にするLCGCは、必然的に、補助金の付いた低価格ガソリンを使う傾向が強い。すなわち、LCGCが普及すればするほど、低価格ガソリンの需要が増加し、燃料補助金を削減したい政府の方針と合致しなくなる。そこで、政府は今、LCGCに補助金付きガソリンを使わせない方策を検討中である。

エネルギー・鉱物省は、LCGCの補助金付きガソリン使用禁止を徹底させるべきだと主張するが、その具体的な方法については法的に規制する以上の具体策を示していない。国営石油会社(プルタミナ)は、ガソリンスタンドにPOSシステムを導入し、自動車のナンバーや購入者の特定ができる仕組みを試行しているが、そのデータを活用してどのように補助金付きガソリンを使った購入者に対して罰則を課すのか明らかでない。

現段階では、「ガソリンスタンドの注油ノズルの口径を変えて、LCGCに補助金付きガソリンが給油できないようにする」というハティブ財務大臣の提案が有力視されている。4月17日、ヒダヤット産業大臣も同案に同調し、プルタミナと協議する意向を示した。

これらを見る限り、政府はLCGCを普及させたいのか、させたくないのか、はっきりしない。ちぐはぐな印象を持たざるを得ない。ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)知事の言うような、「渋滞を激化させるLCGCの普及よりも公共交通機関の整備を優先すべき」という姿勢も、政府からは見えてこない。

自動車産業を今後の工業化の柱にしたいならば、政府は「LCGCをどうしたいのか」をまず明確にする必要がある。

【インドネシア政経ウォッチ】第83回 闘争民主党20%割れをどう見るか(2014年4月17日)

国会(DPR)、地方代議会(DPD)、州議会(DPRD Provinsi)、県/市議会(DPRD Kabupaten/Kota)の各議員を選ぶ総選挙は、4月9日に投票が行われた。ランプン州ではさらに州知事選挙の投票も重なった。一部では、投票用紙の取り違えや不正の発覚などがあり、投票のやり直しを行ったところもあるが、大きな混乱もなく終了した。

総選挙委員会(KPU)による投票結果の確定までは約1カ月あるが、KPUに登録された56社が行なったクイックカウントは投票後から始まり、数日でおおよそ結果が固まった。ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事を大統領候補に推す闘争民主党(PDIP)が第1党となり、ゴルカル党、グリンドラ党、民主党が続いた。

PDIPは目標得票率を27%、ジョコウィ効果を踏まえて、あわよくば30%以上という強気の目標を掲げていた。ただ速報値では20%を割る結果に終わり、第1党にもかかわらず、まるで敗者のような落胆を見せた。得票率が20%を超えれば、単独で大統領候補を擁立できるが、それが無理となり、他党との連立を余儀なくされたからである。PDIPの期待外れの結果は、大統領候補としてのジョコウィの立場を弱めただろうか。

実はそうではない。PDIPはジョコウィを使って得票増を目指した。同党員であるジョコウィは立場上、総選挙ではPDIP支持を訴えなければならない。しかし、「ジョコウィは好きだがPDIPは嫌い」という人々が相当数存在する。もし、総選挙でPDIPの得票率がもっと高ければ、ジョコウィはPDIPの占有物とならざるを得なくなったはずである。PDIPが20%割れしたおかげで、ジョコウィは再びジョコウィとして動けるようになった。

それは、PDIP幹部ではなくジョコウィ自身が、直接に他党指導者に接し始めたことにも現れている。そして「副大統領候補は自分が決める」「(当選後の)次期内閣はプロフェッショナル人材を多用する」とも言い切った。ジョコウィ人気の裏に、政党や政治家への国民の強い不信感があることを忘れてはならない。

【インドネシア政経ウォッチ】第82回 村落向け資金を管理・運営できるのか(2014年4月10日)

2013年12月末の国会承認を経て、村落法(法律2014年第6号)が施行された。この法律には、村の設立条件、村の権限、村長選挙、村議会、村条例、村財政などが定められている。また、村のカテゴリーに、行政上の村に加えて慣習村を初めて法的に位置付けた。

なかでも、特にメディアで話題となったのは、中央政府から県・市政府へ配分される均衡資金(日本の地方交付税交付金に相当)のうち、特定目的にのみ使われる特別配分金を除いた分の最低10%を村落へ配分すること、および県・市が地方税や利用者負担金で得た歳入の最低10%を村落へ再配分すること、が定められたことである。

今年度の国家予算で試算してみると、県・市経由で村に配分されるのは59兆2,000億ルピア(約5,380億円)、県・市の地方税・利用者負担金からの再配分が45兆4,000億ルピアであり、合計104兆6,000億ルピアが全国7万2,000村へ配分される。単純計算で一村当たり14億ルピアの資金が流入する。

2014年総選挙を控えた時期でもあり、国会はこの村落向け資金配分にこだわった形跡がある。実際、今回の選挙キャンペーンでは、村落法制定への自党の貢献をことさらにアピールする政党がいくつかあった。総選挙を前に、村落向け資金も政治的に利用される可能性が高いため、執行は15年からに延ばされた。

政府は、村落向け資金の会計報告に関する村落行政官の責任などを定める実施規則を5月までに策定する意向である。しかし、村落行政官はこれらの資金を有効に管理・運営できるのだろうか。

日本と違い、インドネシアの村落行政体はオフィスの体を成していない。村落行政官のほとんどは公務員ではなく、地元住民の有志である。資金管理を行うには、まず帳簿の付け方から学び始めなくてはならない状況にある。

パプア州では、過去数年間にわたり、すでに各村へ毎年10億~30億ルピアもの資金が配分されたが、住民にはその使途が知らされず、汚職の温床となっている。残念ながら、こうした現象が全国的に起こらない保証はない。

【インドネシア政経ウォッチ】第81回 労働組合による大衆動員は不発(2014年4月3日)

3月16日から総選挙のキャンペーンが始まった。スハルト時代のようなバイクや車でのラリーは禁止され、政党がキャンペーン会場に人を集めるのも四苦八苦であり、大衆動員の政治の時代は終わったようである。それでも、政党や政治家は、数少ない大衆動員の手段とみなして労働組合へ接近した。

その結果、国内最大の全インドネシア労働組合総連合(KSPSI)は分裂し、闘争民主党員であるアンディ・ガニ議長以外に、ゴルカル党幹部のヨリス・ラウェヤイ氏が議長に就き、雇用側であるインドネシア経営者協会(APINDO)との緊密な関係を打ち出した。

他方、労働組合側も、政党や政治家を利用して、賃上げなどの要求を実現させようと動いてきた。大統領選挙では、アンディ・ガニは闘争民主党のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)候補を、ヨリスはゴルカル党党首のアブリザル・バクリー候補を支持する。

最も戦闘的な労働運動を行ってきた金属労連(FSPMI)を率いる、インドネシア労働組合連合(KSPI)のサイド・イクバル議長は、グリンドラ党党首のプラボウォ候補支持を表明した。イクバルは昔、福祉正義党から国会議員に立候補し、闘争民主党にも近づくなど、彼個人に政治的野心があるとの批判がある。今回、非民主的とされるプラボウォを嫌う他幹部とイクバルとの溝が一層深まった。

労働デモの継続で労働組合の動員力を認知させ、政党や政治家が労働組合の意向を無視できない状況を作り出す。そして次の政権で有力ポストを得る。それがイクバルのシナリオだった。しかし、ジャカルタ首都特別州知事のジョコウィが2014年の州最低賃金を10%台に抑制したことで、そのシナリオは崩れた。

イクバルの敵となったジョコウィは、今や大統領候補として圧倒的な人気を誇る。イクバルとは対照的に、KSPSIのアンディ・ガニはジョコウィ内閣での入閣に期待を寄せる。

ジョコウィ人気のおかげで、政党や政治家が大衆動員の手段として労働組合を使う意味はほぼなくなったといえる。

【インドネシア政経ウォッチ】第80回 政府、工業団地開発に積極的関与へ(2014年3月27日)

2013年工業法の成立を契機として、政府が工業団地の量的・質的向上へ積極的に関わる姿勢を見せ始めている。インドネシアでは工業団地の9割以上が民間主導で開発されたことから、政府には、マレーシアのように政府主導で開発を進めた国に比べて土地収用が遅れ、用地価格も高めになったという認識がある。

政府は、14年から、品質基準を定めて工業団地を評価し、2年間有効の認定証を出すほか、優秀な工業団地を表彰することを検討している。また、ジャカルタ周辺から地方への産業分散を図る観点から、25年にジャワ島外の工業生産比率を40%以上にすることを目標に、特にジャワ島外での工業団地開発を促す意向である。

工業団地は現在、全国に74カ所・約3万ヘクタールあるが、そのうちジャワ島には55カ所・2万2,796ヘクタールが集中する。しかもそのほとんどはジャカルタ周辺に立地する。残りはスマトラ島に16カ所、スラウェシ島に2カ所、カリマンタン島に1カ所である。今後、少なくとも20カ所、合計約3万ヘクタールの工業団地開発が計画されている。

ジャカルタ周辺の工業団地拡張の余地は限られている。西ジャワ州カラワン県は、空間計画による工業向け用地2万ヘクタールが満杯となったとして、新たな工業団地向け認可を行わない方針を示した。全国有数の米作地でもある同県には、農業用地を確保する狙いもある。今後の工業団地開発では、まだ余地の大きい東ジャワ州、中ジャワ州、ジャワ島外への注目度が増すだろう。

ジャワ島外の工業団地は、経済特区(KEK)指定と絡めた展開となる。中国などが工業団地開発に興味を示しているが、経済特区といえども、投資企業自身がインフラ整備をせざるを得ないのが現状である。

インドネシアの工業団地開発は、実は1989年まで国営企業が担っていたが、需要増加に追いつけず、民間の参入を認めて対応した経緯がある。政府の積極的な関与が民間の事業意欲を圧迫しないことを願うばかりである。

【インドネシア政経ウォッチ】第79回 闘争民主党と「空気」を読む政治(2014年3月20日)

3月14日、闘争民主党のメガワティ党首は、ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(通称・ジョコウィ)州知事を同党の大統領候補と正式に決定し、ジョコウィもそれを受諾した。ジョコウィの出馬表明で、4月9日投票の総選挙(議会議員選挙)と7月9日投票の大統領選挙が一気に動き始めた。

過去に大統領を務め、前回も前々回も大統領選挙に出馬したメガワティ党首は、今回も出馬に固執しているという見方もあった。なぜなら、闘争民主党はメガワティの父であるスカルノ初代大統領の政治思想を継承し、今回の大統領候補決定を含め、メガワティがすべてを決める「メガワティの党」だからである。当然、ジョコウィを利用して総選挙に勝利し、それを踏まえて自分が出馬、というシナリオもあり得た。

だが、世論調査の結果は、メガワティの当選可能性はジョコウィよりもはるかに低いことを示した。党内にはメガワティを大統領候補、ジョコウィを副大統領候補にする考えもあったが、「ジョコウィを自分の権力欲のために利用した」との批判が巻き起こり、場合によっては、ジョコウィが党を離れる事態も考えられた。ジョコウィ人気を総選挙での闘争民主党の勝利に活用したい。しかし、ジョコウィが副大統領候補では党への支持が集まらない。メガワティは現実的な選択をした。

ちまたでは、「ジョコウィが大統領になる」という「空気」が強まって、面と向かってジョコウィを批判できない雰囲気すら漂い始めている。筆者は、ジョコウィが不出馬の場合の政治的混乱や治安の悪化をむしろ懸念していた。同時に、「空気」を読んだ機会主義者が、これからジョコウィへどんどんすり寄っていく。実際、総選挙を戦う前から、複数の有力政党がジョコウィと組む副大統領候補について言及している。

ジョコウィと組む副大統領候補は誰か、大統領選挙でどのぐらい得票するか、後任のジャカルタ首都特別州知事には華人系のアホック副知事が就くのか、政治の焦点は移り始めている。

【インドネシア政経ウォッチ】第78回 スラバヤ市長は辞任せず(2014年3月13日)

先週、ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(通称・ジョコウィ)州知事を大統領候補とすることを闘争民主党がほぼ確定した、との記事が出た。そのジョコウィと並ぶ人気を集めているのが東ジャワ州スラバヤ市のリスマ市長である。

市職員からの叩き上げで、2010年に闘争民主党推薦で選出された女性市長(非党員)は、市内の美化・緑化、ゴミや廃棄物のリサイクル処理を進めて、ほこりっぽくて殺風景だったスラバヤを潤いのある街へと変貌させた。市内のブンクル公園が国連人間居住計画(ハビタット)福岡本部によるアジア景観賞の最優秀賞に選ばれたほか、リスマ市長自身がシティーメイヤーズ・ドットコムによる世界最優秀市長に選出されるなど、国内外から表彰が相次いでいる。

このような実績を誇るリスマ市長が最近、辞任をほのめかした。昨年に州知事選挙立候補のため辞任したバンバン副市長の後任に、スラバヤ市議会がウィシュヌ闘争民主党代表を選出したためである。この選出手続き自体に不正疑惑があるほか、ウィシュヌには、リスマがかつて市内高速道路建設を拒否した際に、リスマ下ろしを画策した過去がある。加えて、東南アジア最大と言われた売春街の撤去を強行した際、商業施設への再開発を防ぐためにスラバヤ動物園を市営化したリスマに対して、次期市長選挙での彼女の再選を阻止したい利権絡みの勢力が圧力をかけてきた。

政治組織や実業界と利害関係のないリスマ市長のよりどころは、市民の支持である。その頃、市内各所に「リスマを救え」とのポスターが張り出された。しかしリスマは、市美化条例に違反するとの理由で、それらをすべて撤去した。それでも市民の「辞めないで」の声は収まらず、結局、リスマは辞任を否定する声明を出すに至った。

辞任をほのめかしたリスマに、複数の政党が副大統領候補を打診したが、すべて断られたらしい。頑固で一途なリスマへの支持拡大は、ジョコウィの台頭とともに、これまでとは違う新しい政治への期待を抱かせる現象である。

【インドネシア政経ウォッチ】第77回 北スマトラの電力危機は続く(2014年3月6日)

長引く北スマトラ州の電力危機が国家的課題として取り上げられ始めた。2月27日の閣議で、ユドヨノ大統領が電力供給問題、特に壊れた発電機の早急な修繕を命じた。

北スマトラ州で電力危機が言われ始めてから、すでに10年近くが経過している。2005年から10年間で計1,000万キロワット規模の電力供給増加計画も立てられていた。 たとえば、09年にラブハン・アンギン火力発電所から33万キロワット、10年にアサハン第1水力発電所から18万キロワット、11年にパンカラン・スス火力発電所から40万キロワット、といった具合である。北スマトラ州には火力発電所に加えて水力発電所や地熱発電所もあり、これらが順調に動けば、電力は十分に足りる計算だった。

ところが、これらの発電所の建築許可が地方政府から下りない。たとえ発電所が運転可能となっても、用地買収が進まないために送電所が建設できない。さらに、アチェ州のアルン天然ガス田から引く予定のガスパイプラインの建設が終わらず、火力発電所へのガス供給のめどが立たない。そして、官僚制や汚職の問題も見え隠れする。

加えて、州内の複数の火力発電所で中国製発電機が故障して止まり、その修繕のめどが立たない。ユスフ・カラ前副大統領は、「当時、政府の資金不足で中国製を選択してしまったが、メンテナンス面を考えなければならなかった」と述べている。発電所を建設する資金の85%を中国側が負担するというスキームも破綻し、結局は国営電力会社(PLN)が穴埋めせざるを得なくなった。これらの結果、現時点では目標の1,000万キロワットのうち650万~750万キロワット程度しか達成できず、計画停電を余儀なくされている。

中国製発電機の問題については、非効率で高度な汚染源になるとして、中国が40万キロワット以下の発電所の建設を禁止したため、売れ残った発電機が上乗せ価格でインドネシアへ売られた疑いも指摘されている。

しかし、北スマトラ州の電力危機は待ったなしで、戦犯探しや政略を弄(ろう)している余裕はない。官僚制や汚職の問題にも切り込む必要があるだろう。

【インドネシア政経ウォッチ】第76回 刑法・刑事訴訟法改正案をめぐって(2014年2月27日)

国会で審議されている刑法・刑事訴訟法改正案をめぐって、汚職撲滅委員会(KPK)が法案の撤回・審議の延期を強く求める書状をユドヨノ大統領宛に送付した。KPKによれば、同案がKPKの権限や活動を著しく制限する内容になっているためである。

同案によると、KPKには取り調べのための拘置期間延長の権限がなくなる。裁判官はKPKによる逮捕を取り消すことができる。容疑者の拘留期間が今よりも短縮される。証拠差し押さえに裁判官の許可が必要となる。盗聴にも裁判官の許可が必要であり、 場合によっては許可が取り消される。無罪判決の場合には最高裁へ控訴できない。最高裁判決は下級裁よりも重刑であってはならない。以上のような内容がKPKから問題視されている。

これまでKPKは、KPK法(法律2002年第30号)および汚職犯罪撲滅法(法律01年第20号)に基づき、大統領直轄の強力な権限を行使して、汚職摘発に努めてきた。汚職捜査での盗聴も認められ、汚職裁判では生々しい録音記録が証拠として提示されることも頻繁にあった。

KPKの懸念の背景には、裁判所への不信感がある。憲法裁判所をめぐる汚職事件では、地方首長選挙結果で不服申立があった場合、主に勝者側の言い分を通すためにアキル前憲法裁長官から贈賄が強要され、同長官はその一部である1,610億ルピア(約14億円)をマネーロンダリングしていた。政治家や官僚と裁判官との癒着も相次いで報じられており、政治家や官僚が裁判官へさまざまな圧力をかけ、汚職捜査を妨害する可能性がある。

こうしたKPKの懸念に対して、アミル法務・人権相は、刑法・刑事訴訟法は基本的な一般法であり、KPK法や汚職犯罪撲滅法を縛るものではないので、従来通り、KPKは裁判所の許可なく盗聴活動などができるとしている。

現在の刑法・刑事訴訟法は、いまだにオランダ植民地時代のものを適用しており、時代に則した新しいものへ変える必要性が以前から指摘されてきた。もっとも、国会会期終了の9月までに、この審議が終わるかどうかは微妙である。

【インドネシア政経ウォッチ】第75回 クルド火山噴火の影響(2014年2月20日)

2月13日夜、東ジャワ州のクルド火山が噴火した。噴煙は高さ17キロに達し、ガスや火山灰を含む1億3,000万立方メートルもの火山性物質を噴出した。この火山は1990年3月にも噴火したが、そのときの火山性物質の噴出は5,730万立方メートルだった。今回の噴火自体の規模は前回を上回ったほか、2010年の中ジャワ州ムラピ火山の噴火に匹敵する規模だった。

今回のクルド火山の噴火は短いものであり、1990年3月のクルド火山や2010年のムラピ火山のように、噴火が長期化する気配はないとみられる。しかし、噴火がすでに終息したわけではなく、しばらくは警戒が必要である。

この噴火の影響で、東ジャワ州ではクディリ県やブリタル県などで約10万人が避難を余儀なくされ、周囲は火山灰で覆われた。火山灰はマラン、クディリ、ブリタルで7センチ、バトゥ、中ジャワ州ソロ、ジョクジャカルタで5センチ、東ジャワ州シドアルジョで3センチ積もり、遠く離れた西ジャワ州バンドンでも1センチ積もった。

風向きの関係で、火山灰はクルド火山よりも西側へ多く降り注いだ。このため、ジャワ島内では一時、ジャカルタ以外の全空港が閉鎖され、2月19日時点でもソロで空港閉鎖が続いている。筆者も当時、中ジャワ州スマランへ出張中で、飛行機がキャンセルとなり、夜行列車でスラバヤへ戻った。

スラバヤも火山灰が1センチ積もり、一時真っ白となったが、その後、毎日数時間、雷を伴った豪雨があり、市内に積もった火山灰はきれいに洗い流された。2月16日には空港も再開され、スラバヤに限っていえば影響は最小限で済んだ。クルド火山に近いマランでも、場所によっては火山灰がほとんど降らなかったところもある。しかし、もし乾季で西寄りの風が吹いていたら、スラバヤも大きな影響を受けるはずである。

インドネシアでの経済活動にとって最大のリスクは、実は自然災害である。日本でも関東地方の大雪で大きな被害が出ているが、緊急事態に備えた危機管理対策が日頃から重要になる。

【インドネシア政経ウォッチ】第74回 トランスジャカルタの機能的進化(2014年2月13日)

首都ジャカルタの渋滞対策は待ったなしである。地下鉄やモノレールの建設が具体化し、大通りの真ん中のバスレーンを走るトランスジャカルタも新車両の導入が進む。国鉄の駅の周辺にはバイクを停める駐輪場が続々と造られ、パーク・アンド・ライドが進む。従来、その場しのぎでバラバラな対策だったのが、さまざまな対策の間の連関が見え始めてきた。

ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)州知事の渋滞対策の基本は、「いかにして自家用車から公共交通機関への切り替えを促すか」の一点に集約できる。すなわち、街中を走る自動車の台数を減らすことである。そのためには、エアコンの効いた清潔な公共交通機関が頻繁に走り、しかも行先に応じて乗り換えがしやすいことが求められる。地下鉄やモノレールの完成を待つことなく、まず標的としたのはトランスジャカルタである。

ジョコウィは、これまでのようにトランスジャカルタ自体の路線数を増やすのではなく、そこへ乗り入れるフィーダー型のバス路線を増やす形へ切り替えた。手始めに、アホック副州知事も住む北西の高級住宅地プルイットからバスレーンへ入り、独立記念塔(モナス)やジャカルタ州庁舎を回るバス路線を開設した。高所得層の通勤や買物にバス利用を促すもので、アホックもバス通勤するという。続いて、タナアバン駅からバスレーンを通ってカリバタ駅までの路線を開設し、鉄道利用者がバスへ乗り換えし易くする。以後、中低所得層居住地を結ぶ路線など計23系統の統合型路線を開設する計画である。

すなわち、トランスジャカルタを機能的に進化させていくのである。今後、トランスジャカルタの乗り場を、日本の駅ナカのような複合施設へと展開させ、乗り換え時に安心して歩ける歩道を整備し、公共交通機関に絡めたにぎわいを作り出すことも期待されよう。

トランスジャカルタの機能的進化でバス利用のイメージは好転するのか。もちろん、窃盗やひったくりなど安全面の対策も忘れてはなるまい。

【インドネシア政経ウォッチ】第73回 東ジャワ州知事選挙疑惑(2014年2月6日)

インドネシアでは、選挙結果に対して不服申し立てがあると、憲法裁判所が選挙の勝者を最終決定する仕組みになっている。しかも、憲法裁判所の決定には第三者によるチェックが入らず、1回の判断で決められる。この仕組みを利用して、収賄を繰り返していたとされるのが、先に逮捕されたアキル前憲法裁判所長官である。

アキルは2013年10月2日、中カリマンタン州グヌンマス県知事選挙結果の最終決定に絡む贈収賄の現場を押さえられて逮捕され、その後、いくつかの地方首長選挙でも同様に収賄を繰り返していた疑いが浮上した。

14年1月末、アキルは、地方首長選挙結果の最終決定に手心を加えるため、申し立てを行った者に金品を要求したことをようやく認めた。相場は状況によって異なるが、30億~100億ルピア(約2,500万~8,300万円)だったもようである。アキルは、「金品を要求したが、相手が本当に用意するとは思わなかった」とうそぶくが、相手にすれば強要以外の何物でもないだろう。

そして、アキルが金品を要求した事例として、新たに、13年8月の東ジャワ州知事選挙が浮かび上がった。現職が順当に勝利したと思われた選挙だが、落選候補側が憲法裁判所へ不服を申し立てていた。

アキルによると、彼を含む裁判官は13年10月2日、不服を申し立てた落選候補の当選を決定。しかし、現職側から「現職当選とするよう助けてほしい」と執拗(しつよう)に迫られ、決定を覆すために100億ルピアを要求した。まさにその夜、上述の通り、アキルは汚職撲滅委員会(KPK)に逮捕された。結局、東ジャワ州知事選挙の結果は、数日後、アキル抜きの所内最終会議で審議され、現職当選と決定された。

再選された現職の東ジャワ州知事は民主党州支部長で、敗北すれば民主党には致命的な痛手だった。実際、ユドヨノ党首(大統領)が何度も東ジャワ入りしてテコ入れしていた。もしかすると、アキル逮捕の真の理由はこちらだったのかという疑念さえ浮かんでくる。

【インドネシア政経ウォッチ】第72回 憲法違反でも選挙は実施(2014年1月30日)

憲法裁判所は1月23日、国会議員選挙と分けて大統領選挙を行うことは憲法違反との判断を下した。インドネシア大学のエフェンディ・ガザリ講師と『同時選挙のための国民連合』という団体が求めた違憲審査が認められたことになる。

憲法の第6A条2項には「大統領・副大統領候補ペアは、総選挙参加政党もしくはその複数政党の連合体によって総選挙実施前に決定する」とあるほか、第22E条には「総選挙は国会議員、地方代表議会議員、正副大統領、地方議会議員を選出するために実施される」とあり、総選挙後に、政党が合従連衡して正副大統領候補ペアが決まる現状は違憲状態にあるとの判断である。

ただし、憲法裁判所は、2014年の総選挙と大統領選挙は実施準備が最終段階に入っているとして、現状のまま実施し、同時選挙は次回の19年から実施することも決定した。これに合わせて、地方議会議員選挙と地方首長選挙も、20年からの同時実施が検討されよう。

現在の制度では、国会議員選挙と地方議会選挙を「総選挙」と称して同時に実施し、その後に大統領選挙が行われるが、地方首長選挙は各州・県・市でそれらとは関係なくバラバラに実施されている。今後は国会議員選挙と大統領選挙、地方議会選挙と地方首長選挙がそれぞれ同時に実施されることになる。

今回の憲法裁判所の判断に対しては、同時選挙とすることによって費用と労力を軽減し、有権者も理性的な判断がしやすくなるとの期待がある一方、政治家からは14年の選挙が憲法違反のまま行われることへの批判もある。違憲判断で14年の総選挙・大統領選挙が中止となる可能性もあったが、結局、それは回避された。

一方、「国会議員選挙で25%以上の得票率の政党または政党連合のみが正副大統領候補ペアを出せる」という規定についても違憲審査がなされたが、憲法裁判所はそれを退けた。これにより、14年の総選挙・大統領選挙の実施に関する懸念事項は解消された。

【インドネシア政経ウォッチ】第71回 マナドを襲った洪水(2014年1月23日)

昨年に引き続き、インドネシア各地で洪水の被害が伝えられる。なかでも、1月15日に北スラウェシ州の州都マナド市を襲った洪水はすさまじいものだった。気象庁は、フィリピン南部で季節外れの台風が発生した異常気象の影響とみている。

これまでに19人が死亡、27人が重傷、706人が軽傷のほか、565軒の家屋が流され、1万軒以上が全半壊した。人口40万人のマナド市の被災人口は2割以上の8万7,000人で、市内11郡のうち9郡が被災した。道路も寸断されて交通はまひし、停電も長期化した。

北スラウェシ州のサルンダヤン知事によると、被害総額は1兆8,710億ルピア(約161億円)とみられるが、これは数千億ルピアと現時点で推定されるジャカルタでの被害額を大きく上回る。中央政府は18日と20日、空軍機で緊急物資をマナドヘ送ったほか、スラウェシ島内で同じく洪水の被害に苦しむ南スラウェシ州政府も救援物資を送った。

海に面したマナド市には平地がほとんどない。4つの中級河川と10前後の小さな川が南部の山間部から市内へ流れてくるが、市街地に山がすぐ迫る地形のため、川の流れは急である。これら河川上流部の山間部で激しい降雨が続き、かつ土砂崩れも加わって、鉄砲水がマナド市を襲った。有名企業グループが丘を崩して造成した高級住宅地では、昨年に続いて家屋の倒壊が相次いだ。地元の専門家は、上流部で進む急速な森林伐採による保水力の低下が洪水や鉄砲水の原因と指摘する。

マナド市では一時約4万人が避難したが、これは洪水被害者だけではなかった。洪水発生後、しばらくして水が引き始めた沿岸部に「津波が来る」という噂が交流サイト(SNS)で流れ、市民の間に広まった。津波を恐れて避難した者も相当数いたのである。

被災者からはマナド市や北スラウェシ州の対応の遅れが批判されるが、行政自体が被災して機能不全となった。今回を含めたこれまでの教訓を生かし、中央政府と地方政府が連携して迅速に対応できる、有効な災害対策が求められる。

【インドネシア政経ウォッチ】第70回 ジョコウィ立候補を阻むものは?(2014年1月16日)

7月の大統領選挙を前に、ジャカルタ首都特別州のジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)州知事への期待が高まり続けている。彼自身は大統領選挙への立候補について何も発言していないが、現時点で選挙が行われれば、確実に彼が当選する。

有力紙『コンパス』の大統領候補に関する世論調査では、2013年12月時点でのジョコウィの支持率は、前回13年6月の32.5%から43.5%へと大きく上昇した。すでに立候補を表明しているグリンドラ党のプラボウォ党首は15.1%から11.1%へ低下、ゴルカル党のアブリザル・バクリ党首は8.8%から9.2%へ微増、ハヌラ党のウィラント党首が3.3%から6.3%へ上昇しているが、ジョコウィへの支持は圧倒的である。

これに気をよくしているのは、闘争民主党(ジョコウィは同党の一般党員)である。同党は「ジョコウィ・ブーム」を活用し、大統領選挙前の4月の総選挙(議会議員選挙)で第一党となる戦略である。そしてメガワティ党首は、「大統領候補の正式決定は総選挙後」「大統領候補の決定は党首に一任されている」とし、自身の立候補に含みを残している。

もっとも、これは選挙へ向けた政党間の政治的駆け引きの一環とみたほうがよい。実際、大統領候補としてのメガワティの人気は微々たるもので、ジョコウィとは雲泥の差がある。闘争民主党がメガワティを大統領候補、ジョコウィを副大統領候補とすれば、不人気のメガワティの個人的エゴと捉えられ、闘争民主党への支持は急速に冷めるだろう。勝手に膨らむ人気に押され、ジョコウィは大統領選挙に立候補せざるを得なくなったと言ってよい。

では、ジョコウィ立候補を阻むものはあるのか。スキャンダルや汚職疑惑以外に、心配なのはジャカルタの洪水である。抜本的な洪水対策に取り組まざるを得ない状況になれば、「それを放り投げて大統領選挙に出るのは許されない」と他党が騒ぎ立て、真面目なジョコウィは洪水対策に専心するだろう。その意味でも今季の洪水は注目である。

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